パソコン用眼鏡に関する12人のデータ


岡本隆博
はじめに

 本題に入る前に、
調節力と調節域と明視点との関係をざっとおさらいをし、
そして今回の処方の考え方について触れておく。

 
[調節量と明視点の移動の関係]

 まず、下記に述べることは、
瞳孔径とは無関係のあくまで理論上のことであり、
瞳孔径の縮小による調節域(明視域)の延長などとは関係がない話だと思っていただきたい。

いま、−1.00Dの近視で9Dの調節力を持った眼があるとすると、
調節域は眼前1mから眼前10cmである。
そして、その眼が保有調節力の3分の1(3D)を使うだけで明視点は眼前25cmとなり、
なんと、全調節域約90cmのうちの遠い方から83%もの調節域をカバーできてしまったことになる。

 ところが、あとの残りの調節力のうち、
また3分の1の調節力(3D)を使うとどうなるとかというと、
今度は明視点は眼前14.3cmとなり、初めに比べて明視点の近寄りかたはあまりにも少ない。
すなわち、初めは3Dの調節で明視点は75cm接近したのに、
次の3Dではたったの11cm弱しか、接近しなかったのである。
 そして後の残りの調節力3Dを使って明視点を手前に持ってきても、
たったの4.3cmしか、明視点を引き寄せることはできないのである。(図1参照)


図1 最後の3Dの調節ではたったの4.3cm


 これはどういうことを意味するかと言えば、
調節力というものは、通常の近業距離よりも遠いところでは有効に使えるが、
それよりも近接したところではあまり有効には使えないということである。

 あるいは、調節域の中で、
比較的遠いところでは調節することによる明視点接近の効果は期待できるが、
調節域の中で眼に近いところほど、調節してもあまり効果が出てこない……ということである。

逆に言うと、裸眼または矯正した状態で、
遠点が元からその人の作業距離に近いところにある場合には、
調節力がむやみに多くてもあまりメリットは出てこないということであり、
それをさらに逆に表現すれば、
調節力がほどほどにあるということのメリットを生かすには、
裸眼または矯正した状態での眼の近見での遠点を作業距離よりもなるべく遠めに設定してやればよい
ということになる。

 たとえば、日本眼鏡技術研究会雑誌、第64号の記事、
「近見Red−Green視標を見る調節状態の測定」においては、
40歳未満では平均の調節力が6.2DでRGを均衡して見る調節力が1.1Dとなっている。

 ということは、遠点を眼前50cmとすると近点は12.2cmで、
RGが均衡する距離は32.3cmとなり、調節域のほぼ中央に来る。

 そして、仮にパソコン画面までの距離を50cmとし、
眼鏡で矯正された状態でそこにおいてR=Gとなるものとし、
それは1.1Dの調節量を使って明視しているものであり、
その眼の調節力が6.2Dであるとすれば、遠点は1.11mで近点は14.1cmとなる。(図2参照)


図2 1/6ほどの調節で明視点がこんなに近づく


これなら室内用として実用的な使い方ができるのではないだろうか。

 そして、近業で長時間連続的に凝視する距離のものをなるべく楽に見るメガネの度数は?
……ということになった場合に、
「そこにおいてR=Gとなる度数」というのは一つの仮説的な回答であり、
それが唯一絶対的なものであると断言するつもりは、もちろんながら私には毛頭ない。

 しかし、ある近業距離においてR=Gとなっていれば、それは無調節の状態ではなく、
実は「無理のない調節によって近見をしている状態」であろうと推定され、
その度数が長時間連続的に近業をするのに妥当ではない度数だと批判される根拠もないと思う。

我々は実務家としてなるべく簡単明瞭でしかも効果の出る測定処方の方法を求めるものであり、
難しく複雑な方法を説かれても、実際になかなか実施できるものではない。

 それで私は、以上の仮説を元に、以下のようにパソコン作業用のメガネを処方調製し提供した。
これらはみな無料モニターではなく商売として代金を頂戴してのことであるから、いわば真剣勝負である。


[累進のテストレンズを準備]

 ここで私は、
老視のない人がパソコン作業をする際に使うことになるかもしれない
累進レンズのテストレンズを作った。

 たとえば、
パソコン作業用として、ある度数がよいということになったが、
その度数のままでは室内の遠方のぼけが多くて気持ちが悪いということを訴える人がもしいたら、
そういうことへの対策として準備したわけである。

そのレンズは、累進部の縦の長さが14mmで加入が1.00Dのものであるが、
遠用度数が−1.00Dで、近視部分はプラノである。


いわゆる近近レンズのような感じのテストレンズであるが、
これは遠近累進を入れたものである。(イトーレンズXV)

 なぜ、こうしたのかという理由は以下の通りである。


1.累進部の長さ

中近用や近近用の累進レンズはどれも累進部の長さが長い。
そうすると、
パソコンの画面を見るときに視線を通すポイントと遠方にピントが合う度数になっているポイントが離れていると、
パソコン画面をよほど見下ろす感じで見て遠方は上目使いに見るという眼の使い方でないといけない。

 しかし、現実には、
パソコン画面を見る視線の高さと遠方を見る視線の高さはあまり差がない場合がほとんどである。
だから累進部の長さは短めの方がよい。


 2.視線が通るところの度数の確実性

セイコーキャスターのような累進部が長いものであれば、
いきおいパソコンを見るポイントは累進部の中となる。
しかし今回は、せっかくパソコンを見るのに最適な度数を決めたのだから、
確実のその度数でパソコン画面を見るようにしたい。
 その場合は、累進部ではなく近用部の円の中心あたりで画面を見るようにし、
その部分に決めた度数を設定しておくというのが望ましい。


 3.近用部の明視横幅

 累進レンズというものは、東海のUNOなど一部のもの以外は、
累進部よりも近用部の方が明視横幅が広い。
そして加入が少ないほど近用部の明視横幅(非点収差が0.50D以内)はかなり広く、
たとえば、累進帯の幅が14mmで加入が1Dならば、レンズ明視幅は10数ミリ程度あり、
(本誌51号の近藤正徳氏の『累進レンズの光学的分析』を参照のこと)それだけあれば、
パソコンの画面を見るのに不自由はない。


4.老視がないから加入は1.00で十分

老視のない人がおよそ眼前50cmくらいのところを見るのだから
加入は1.00前後になると予想されるので、
テストレンズも加入は1.00で十分であり、場合によっては0.75でも行けそうである。

 以上のような理由で、遠近累進の、
累進部分の長さが14mmで加入1.00のものを使うことにした。

 しかし、理想を言えば、一番良いのは、
近近累進のように遠用部よりも近用部の方が明視横幅がずっと広くて、
しかも累進部の長さが短く(たとえば12mmくらい)加入は1D程度、というものである。
 そういうレンズがもしあれば、それをテストレンズ及び処方レンズに使うとよかったと思う。


パソコンユーザーへの専用眼鏡の事例


当店はビジネス街にあるので、
店頭に「パソコン用メガネできます」とのポスターを貼り、
店のホームページにもそれを書いたところ、ぼちぼちと、パソコン眼鏡を求めて来店する人が出てきた。

また、お客さんのほうからそういう訴えを聞かなくとも、
当方から「パソコン作業が長くて眼が疲れることはありませんか」と尋ねてもみた。
 そのようにして今回私がパソコン用眼鏡として測定した12人の顧客のデータを以下に示す。

@ M.S.さん、26歳女性

 主訴 毎日長時間パソコンをやるので目が疲れる。特に左目の方がしんどい。
 メガネの使用経験なし。
5m自覚的屈折検査(両眼開放)
 RV=(1.5×S+0.50 C−0.50 Ax75)
LV=(1.5×S+1.00 C−0.75 Ax100)
          眼位 1.5△B.O.

 パソコン画面の距離(約60cm)では、下記の度数でリーディングチャートの赤緑視標がR=Gとなる。
 R=S+0.75 C−0.50 Ax75
L=S+1.25 C−0.75 Ax100 ……(1) 

 この度数での遠見はややぼけを感じるが、
近業以外にはメガネを使うつもりはないとのことなので、
(1)の度数でパソコン用に使ってもらうことにして、
しばらく装用テストをしたら、
「楽な感じです。手元の書類も見やすいです」
とのことだった。

A MNさん、 33歳の女性

 以前から遠視だと言われてきたが、メガネは使ったことがないとのこと。
 パソコンを毎日長い時間見て、眼が疲れて仕方がないそうだ。

5m自覚的屈折検査(両眼開放)
 RV=(1.5×S+1.00 C−0.25 Ax180)
LV=(1.5×S+0.50 )  眼位 正常

 パソコン画面の距離(約50cm強)では、
上記の度数のままでリーディングチャートの赤緑視標がR=Gとなる。
 その位置から前後に少し視標を動かしても、R=Gのままである。 
 この度数で遠見もぼやけはないので、
メガネを常に使ってみませんかとお勧めしたが、
その気はなく、とりあえずデスクワークのときに使いますとのことであった。

 パソコンを見ながらしばらく装用テストをしたら「見やすくて疲れにくそうです」とのことなので、
これで処方調製しお渡しした。PDは近用PDに合わせた。
(ここまでは、まだRG調節率は見ていない)

B B.I.さん、28歳・男性

2004.1.17
 主訴:パソコンをやっていて1時間くらいたつと、文字が白くなってきて見えにくくなってくる。
(一日に8時間くらいパソコンをやる)
 現在眼鏡なし。
5m自覚的屈折検査(両眼開放)
 RV=(1.5×S−0.25 C−0.25 Ax95)
LV=(1.5×S−0.25 C−0.25 Ax85)
 眼位 R 0.25△B.D.
2D加入による遠点:67cm 同近点:12cm 
RG均衡距離:23cm 調節力:6.81D 
RG調節量:2.85D RG調節率: 41.8%

パソコン画面まではどのくらいですかと尋ねて、
リーディングチャートで本人に示してもらうと、52cmだった。
そこでRGの均衡する度数を求めると、

 R=S+0.50 C−0.25 Ax95
L=S+0.50 C−0.25 Ax85

となった。それで拡大アムスラーチャートを見てもらうと、
縦長に見えるとのことで、乱視を抜くと普通に見えるとのことだった。
で、この乱視は抜くことにし、球面のみで、
左右ともS+0.50と、左右ともS+0.25ではどちらが良さそうかと比較してもらうと、
本人の作業距離では+0.50の方が文字がはっきりと見えるとのこと。

それで下記の度数でしばらくパソコン画面を見てもらって、具合が良さそうなので、これに決定した。

R=S+0.50
L=S+0.50

眼鏡をお渡しして1週間後に来店され、
「文字が白くなるのはなくなったが、30分くらいやっていると、
画面の端から端に視線を移したときにぼやけて、またじわっと見えて来るという現象が起きる」
との訴えがあった。そして、パソコン画面との距離は60cmだったとのこと。

2004.1.24

5m自覚的屈折検査(両眼開放)
 RV=(1.5×S−0.25 C−0.50 Ax100)
LV=(1.5×S−0.50 C−0.25 Ax80)     眼位 R 0.25△B.D.

視距離60cmにおいてRGが均衡する度数を求めると、
 R=S+0.50 C−0.50 Ax100
L=S+0.50 C−0.25 Ax80

となった。無限遠完全矯正度数からすれば、1Dの加入になるが、
その完全矯正からすれば眼前60cmを見るには理論的には1.67D調節が必要なので、
この眼鏡だとそれが0.67Dで済んでいることになる。
すなわち、その視野距離での必要調節量の約6割を節約していることになる。

 それで、今度は乱視を抜かない方が良さそうだと思って、
この度数でしばらくパソコンを見てもらったら
「これならOKです。視線を移してもぼやけません。」
ということなので、この度数に決定した。


C H.Eさん、24歳、男性

 主訴:現在眼鏡でパソコンやっていると、眼が疲れてしょぼしょぼしてくる。
 一週間に2〜3日、ワンデイのソフトCLを使う。

現在眼鏡
R=S−5.00
L=S−2.75 PD70

 遠見ではこの眼鏡で特に問題はないが、パソコン作業はつらい。

5m自覚的屈折検査
R=(1.5×S−6.25 C−0.50 Ax110)
L=(1.5×S−2.50 C−0.75 Ax70)
眼位 3△B.O.
2D加入での遠点:42cm 近点:11cm 
RG均衡点:34cm 調節力:6.71D 
RG調節量:0.56D RG調節率:8.3% 
ノートパソコンの画面までの距離は65cm

そこでのRG均衡度数は
R=S−5.00 C−0.50 Ax110
       (5m値からの加入は1.25D)
L=S−1.75 C−0.75 Ax70
        (5m値からの加入は0.75D)
(この人は強度の不同視だったので、
調節力が左右で違っている可能性が高いので、
リーディングチャートの偏光RG視標を使って左右眼別にRGの均衡する度数を求めた)

 これで暫くパソコン作業をしてもらったら、いまのメガネよりもかなり楽で見やすいとこことだった。


D HTさん。33歳男性。

 パソコン作業用のメガネを要望して来店された。

現在眼鏡
R=S−2.00
L=S−2.00 C−050 Ax84

 長い時間パソコンを見ていると疲れるとのこと。

5m自覚的屈折検査(両眼開放)
R=(1.5×S−2.00 C−0.50 Ax110)
L=(1.5×S−2.00 C−0.75 Ax80)……(1)
2D加入での遠点:52cm 近点:13cm 
RG均衡点:32cm 調節力:5.77D 
RG調節量:1.21D RG調節率:20.9%
 パソコンまでの距離でRG視標を見てもらうと、(1)に左右共に0.75Dの加入で、RGの均衡を得た。

 それで、
近業は楽だとの答えがあったが遠方がぼやけすぎて具合が悪いとのことで、
常用できるメガネを要望された。
そこで下記の度数にした。

R=S−2.25 C−0.50 Ax110 Add.100
L=S−2.25 C−0.75 Ax80 Add.100

累進帯の長さが14mmの遠近累進レンズで、
水平視線はこの遠用度数よりもやや下を通り、
パソコン画面を見るときには丁度この加入度が入ったところを視線が通るようにした。


E YHさん。34歳男性

2〜3年前から、両目の奥が痛くなり始め、
首の付け根の所も痛かったり、首が凝ったりしている。
先日、眼科へ行ったら遠視だと言われ、読書用メガネを処方してもらってメガネ屋で作ったが、
2週間使用して、目の奥の痛さは減ったが、首のこりがひどくなった。

現在眼鏡
R=S+1.00
L=S+1.00 OCD66mm

 それで2〜3軒のメガネ屋さんに行って目の検査をしてもらったが、
検査結果がそれどれ違ったので、どちらを信用すれば良いのか分らない。

 いまこの遠視矯正眼鏡を使ってパソコン(仕事で一日に10時間くらい)をやっているが、
普段は裸眼で過ごしており、メガネは常用したくないとのこと。

5m自覚的屈折検査
R=1.5(2.0×S+1.00 C−0.50 Ax90)
L=1.2(2.0×S+1.50 C−0.50 Ax105)
         0.75△B.O.
2D加入での遠点:34cm 近点:11.5cm 
RG均衡点:29cm 調節力:5.75D 
RG調節量:0.51D RG調節率:8.9% 

近業距離でのRG均衡度数
R=S+1.50 C−0.50 Ax90
L=S+2.00 C−0.50 Ax105
    近見での斜位はなし

 これでしばらくパソコン画面を見てもらったらOKだったので、これで処方した。
 いまのメガネの枠を利用してレンズだけ入替えた。
なお遠用(常用)として次の度数をお勧めしたが、考えてみるとのことだった。

R=S+0.50 C−0.50 Ax90
L=S+1.00 C−0.50 Ax100 0.75△B.O.

………………

 約20日たって、
またご来店になり「パソコン作業をして数時間たってくると首筋が痛くなり、
パソコン作業が終わるとチクチクと眼が痛い」との訴え。

5m自覚的屈折検査
R=(2.0×S+0.75 C−0.25 Ax90)
L=(2.0×S+1.25 C−0.50 Ax105)
          0.75△B.O.

近業距離でのRG均衡度数
R=S+1.25 C−0.25 Ax90
L=S+1.75 C−0.50 Ax105 近見での斜位はなし (5m値からの加入は0.50D)

 この程度であれば、前回とあまり代わり映えがしない。
それで、メガネを常用してもらえる度数で作ってみて、それでパソコン作業もやってもらおうということにし、
下記の度数でレンズ入れ替え(無料)をした。

R=S+1.00 C−0.25 Ax90
L=S+1.50 C−0.50 Ax105 BV=(1.5)

「もし、今回のメガネでも具合が悪ければ、それは日常生活用とし、
近く専用をもう一度測定して作られたらよいと思います」と申し上げた。
その後何も言ってこられていない。


F T.K.さん。30歳男性

 職場と家庭と、長時間のパソコン作業で眼が疲れるとの訴え。眼鏡使用経験はない。

5m自覚的屈折検査
R=1.2(1.5×S±0.00 C−0.25 Ax165)
L=1.5(1.5×S±0.00) 正位

2D加入での遠点:36cm 近点:12cm 
RG均衡点:28cm 調節力:5.56D 
RG調節量:0.80D RG調節率:14.4% 

近業距離でのRG均衡度数
R=S+0.75 C−0.25 Ax165
L=S+0.75 (5m値からの加入は0.75D)

 これでしばらくパソコン画面を見てもらったら、
「よくわからないけれど、楽な感じがする」とのことだった。

 眼前30cmくらいで小さな字を見てもらったら、
眼鏡があるときとないときの差はよくわかるとのことだった。

 度数はこれでいく、となったが、
電磁波防止や色について質問を受けたが、
「どちらについても、それによる効果がまだよくわかっていません。
普通の無色レンズとの比較データもあまりないようです」
と答え、無色のCRレンズで受注した。


G Y.I.さん。28歳女性。

 会社で毎日10時間以上パソコンをやるので眼が疲れるとのこと。

現在眼鏡
R=S−2.75
L=S−2.75 BV=(2.0)

5m自覚的屈折検査
R=(1.5×S−2.75)
L=(1.5×S−3.00) 1△B.O.

2D加入での遠点:51cm 近点:10cm 
RG均衡点:29cm調節力:8.00D 
RG調節量:1.45D RG調節率:18.1% 

 ディスプレーの位置が眼の高さくらいで、45cmくらいの視距離。
その場合のRG均衡度数は

R=S−1.75
L=S−2.00 ……(1) (5m値からの加入は1.00D)

となり、これだと遠見視力が0.3になり不満を訴えられる。
ディスプレーの高さが高いので中近累進も使えない。

 それで妥協して、
これよりも0.25Dあるいは0.50Dマイナス側に持ってきた度数で試すと、
これでも遠くはやや不満であったので、さらに0.25Dマイナス側に変えて

R=S−2.50
L=S−2.75

 としたら、「これなら辛抱できそう」とのことだった。
 しかしこれではパソコンディスプレイの位置では確実にR<Gであり、
自覚的にも(1)での見え方よりもしんどそうな感じとのことなので、
当方は「(1)の度数をパソコン専用としてお使いになり、
室内のやや遠くがぼけるのはがまんしてください。そのうちに慣れると思います」と言った。

 ところがお客さんは「これではとうてい無理」とのことで、
結局、常用ではっきり見えるメガネを作ることになった。
そこで下記の度数で遠常用の眼鏡を調製した。

R=S−2.50
L=S−2.75


H H.K.さん。36歳の男性。

 家でも会社でも長時間パソコンをやるので眼が疲れるとのこと。

現在眼鏡
R=S−3.25
L=S−3.75

5m自覚的屈折検査
R=(1.2×S−3.25 C−0.25 Ax95)
L=(1.2×S−3.75) 正位

2D加入での遠点:43cm 近点:21cm 
RG均衡点:29.5cm 調節力:2.44D 
RG調節量:1.07D RG調節率:43.8% 
近業距離でのRG均衡度数は
R=S−2.25 C−0.25 Ax95
L=S−2.75 (5m値からの加入度は1.00D)

 これで遠見視力は0.6となり、
「この程度なら室内用として使えそう」
とおしゃったので、この度数で単焦点で調製した。


10. YOさん。29歳女性。

 ソフトCLを主体に生活しているが、いま眼を痛めていてCLが使えない。
 現在眼鏡は4〜5年前に作ったものだが、これでは眼がくらくらしてくる。仕事でパソコン作業が長い。

現在眼鏡
R=S−4.75
L=S−4.50 BV=(1.2)

5m自覚的屈折検査
R=(1.0×S−4.25 C−1.00 Ax80)
L=(1.2×S−4.75 C−0.50 Ax140) 正位

 等価球面度数で言えば、現在眼鏡は右眼は完全矯正、左眼は0.50Dの低矯正となり、バランスが悪い。
2D加入での遠点:57cm 近点:14cm 
RG均衡点:39.5cm 調節力:5.39D 
RG調節量:0.78D RG調節率:14.5% 

近業距離(約55cm)でのRG均衡度数は
R=S−3.75 C−1.00 Ax80
L=S−4.25 C−0.50 Ax140
    (5m値からの加入度は1.00D)

 これで遠見視力は0.9〜1.0となり、運転もしないので、
この程度でも常用メガネとして使えそう、ということで、
遠くを特にはっきり見ないといけないときにだけ現在眼鏡を使ってください、ということにした。


11. H.I.さん 45歳の男性。

 現在は遠方専用を使用。
他店で遠近両用を見積もってもらうと枠を入れて7万円くらいと言われたので、当店へ来店された。

 パソコン作業も遠近両用でできるかどうかとおっしゃったので、
画面の高さを尋ねたら「ノートパソコンなので低い位置にあります」とのこと。
 「それならおそらく大丈夫でしょう」と答えて検査に入った。

現在眼鏡(遠用)
R=S−2.75
L=S−1.00 C−0.50 BV=(1.5)

現在眼鏡(パソコン用)
R=S−1.75 C−0.25 Ax58
L=S±0.00 C−0.50 Ax117

5m自覚的屈折検査
R=(1.5×S−2.25 C−0.50 Ax48)
L=(1.2×S−0.75 C−0.50 Ax110) ……(1)
1△B.I. BV=(1.5)

 等価球面度数で言えば、現在眼鏡は右眼も左眼も0.25Dの過矯正となっているが、無限遠には丁度だろう。
 現在眼鏡で別に疲れることはないそうだ。

2D加入での遠点:50cm 近点:27.5cm 
RG均衡点:46.5cm 調節力:1.64D 
RG調節量:0.15D RG調節率:9.1% 

パソコン作業距離(約40cm)でのRG均衡度数は
R=S−1.00 C−0.50 Ax48
L=S+0.50 C−0.50 Ax110
    (5m値からの加入度は1.25D)

 キーボードの手前に資料を置いて作業をなさるので、
資料への視距離はもう少し短くなる。

 それで、遠近両用で遠用は(1)の度とし、
累進のテストレンズで、加入度を1.00〜1.75まで試してみた。

 すると1.50の加入ものが画面や資料の文字のハッキリさと、横方向の視野の広さと、
全体的な自然さのバランスがベターだということで、1.50加入に決定した。
(実際には視線は手元の資料も近用部ではなく累進部の下部で見ている)

 老視の初期だったということと、
ノートパソコンで画面を見下ろす感じになっているということで、
遠近累進でも具合良くいけた例である。


12. JN.さん 28歳の女性

 パソコン用の眼鏡を希望してご来店。現在は遠方専用を随時使用。

 毎日8時間以上、ノートパソコンもデスクトップも使うので、
視線の上下の角度や視距離は一定しない、とのことで、大体の位置で大体の角度でチャートを見てもらった。

現在眼鏡(遠用)
R=S−1.75
L=S−1.75 BV=(1.2)

5m自覚的屈折検査
R=(1.2×S−2.00 C−0.25 Ax100)
L=(1.2×S−2.00 C−0.25 Ax60) ……(1)

2D加入での遠点:46.5cm 近点:11.0cm 
RG均衡点:36.5cm 調節力:6.94D 
RG調節量:0.58D RG調節率:8.4% 
パソコン作業距離でのRG均衡度数は
R=S−1.00 C−0.25 Ax100
L=S−1.00 C−0.25 Ax60
       (5m値からの加入度は1.00D)

 上記の度数と、あと0.25D分弱めた度数との間でRGが均衡する。
 仕事中は室内用として常用したいとのことで、
遠見視力が0.6出る上記の度数をパソコン用として決めた。
手元の資料なども現在眼鏡とは明らかに見やすさがちがう、
現在眼鏡は窮屈な見えかただとのこと。


終わりに

これまで、パソコン作業に関するセミナーや発表のたぐいは、ほとんどが下記のどちらかであった。


1.VDT作業と眼精疲労、というくくりで、論じらられるもの

2.老視のある人の近業用眼鏡の度数の求め方


1の場合には、
眼の疲れにくい環境は、とかいうものであって、
眼鏡処方の実際論に関してはほとんどふれられない。
それ専用のカラーレンズなどの効能をうたった研究などもあったし、
若年者で正視系の眼にプラス度数を与えればよいと述べる報告
−月刊『眼鏡』2004.7 梁島謙次「眼精疲労軽減用レンズ装用調査の結果U」−
もあったが、
老視のない人の場合の適切な度数とは、
という切り口で具体的に詳しく論じられたことはなかったように思う。

 そして、2においては主として累進レンズのメーカー主導のセミナーで、
そのメーカーが発売している近用主体の累進レンズで、
老視の人がパソコン作業をする際の度数の求め方や累進レンズの選び方などについての解説が主であった。

 他にも、
日本眼鏡学ソサエティーで、これに関する研究がいくつか発表されてきたが、
老視以前の人に関するパソコン作業での快適な度数の求め方というテーマで実際的な論が述べられたということは、
少なくとも私の記憶にはない。

「老視以前の人のパソコン作業メガネの度数の求め方」は、
国民の目の健康ということはもちろんのこと、
眼鏡の需要を増やす意味でも、これから多くの人たちによって研究されるべきテーマであり、
今回の私の事例は、その露払いにはなると思う。

 なお、終わりに、下記のことを付記しておく。
 ここで紹介した事例では、
11人の人に対してパソコン用の眼鏡を調製したのだが、その加入度については、
遠視系と近視系で、際だった違いがみられた。

 調製パソコンメガネの加入度の平均値
遠視系(3人)     0.16D
正視・近視系(8人)  1.00D

なぜこうなったのかということを推察で述べれば、
遠視系の眼では常日頃調節をすることに慣れており、
近見における調節も自然に持続して行なえるが、逆に近視系ではどちらかといえば裸眼で近見をしたりして、
調節をさぼりがちなのでこういう結果になった、ということなのかもしれない。


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