メガネ・フィッティング調整研究会

メガネ・フィッティングの奥深き世界とは

世間のメガネ屋さんのフィッティング


岡本隆博

これまでの私のメガネ屋人生(38年間)における体験からして、世間のメガネ屋さんがメガネに施したフィッティングにおいて、一番できていないのは、どういう点だと、あなたは想像されますか。

ずばり言いますと、それは「耳の前後」、特に 「耳のうしろ」の当たりかたです。

それはどういうことかということを、これから A氏が雑誌に執筆された記事を例に説明しましょう。

A氏は、メガネ店の店主なのですが、 そのかたわらB眼鏡技術研究所を主宰し、かなり頻繁に全国各地でフィッティングセミナーを 行なっておられ、A流メガネフィッターの認定事業までなさっておられるかたです。

(A氏を個人的に批判するのが本稿の目的ではないので、ここに実名を出すのを控えました)

業界誌、月刊『 THE EYES 』2014年2月号に掲載の A氏の連載講座において

このときのメガネの腕が上から見て丸くなっている (いわゆる、顔を包み込む形) のを直線的に変形させたことの理由として、

(引用初め) フレームを顔に乗せると、もみ上げあたりが浮いてしまいます。 このままだと、モダン先ばかりにテンションが掛って しまうので、モダン合口あたりから、モダンエンドまで 均等にテンションが掛るように、 テンプル形状を調整しましょう。 (引用おわり)

という説明がありますが、これはおかしいのです。

なぜなら、誰の場合でも、顔の形において、腕の耳より前の部分は、上から見て後ろに行くほどしぼむ、というようにはなっていないので、こめかみはもちろんのこと、もみあげについても、そこを押さえても(両方の腕で横からはさんでも) メガネをずれないようにする力はほとんど働かず、場合によっては、メガネを前にせり出す力がかかってしまうからです。

そして、もみ上げを横から押さえられると、たいていの人はうっとおしさを感じるのです。

ためしに、

1)メガネをはずして、メガネの腕先でもって もみ上げ部分を押さえた場合 と 2)メガネを掛けて、耳の後ろの腕先部分を 両横から、さきほどと同じ力で押さえた場合を比較してみてください。

2)よりも1)のほうが、苦しいというか、痛いというか、とにかく、イヤな感じは強いですよね。

結局、腕がもみあげ部を押さえることについては、 デメリットはあってもメリットは何もないわけですから、 もみ上げには、腕(モダン部)が触れないのがベストであり、それが無理でも、触れてることはあっても抑えない、 のがよいのです。

実際のところ、私自身がお客様に実施するフィッティングにおいても、他店のメガネで、もみあげ(こめかみではありません、もみ上げです)を押さえる状態になっているもの、あるいは、調整前の新しいメガネで、もみ上げを押さえる初期状態に なっているのを、そこを押さえないように私が修正して、(もちろん屈折点から先も修正して)たいへん具合がよくなったと喜ばれることがよくあるのです。

A氏以外にも、この「もみ上げは腕でおさえないほうがよい」ということを知らなくて、逆に、「こめかみは押さえないほうがよいが、もみ上げは押さえるのがよい」と思っているメガネ屋さんは意外に多いようなので、困ったものです。

また、枠の設計者でも、そこのところを勘違いしている人がいて、もみ上げ部分を押さえやすい形になった腕のメガネが、実際に製造発売されたりするのです。

たとえば、メガネは道具だ、とかいうようなキャッチの宣伝をしていたブランドの枠にも、そういう形の腕を持ったものがありました。

それからもうひとつ。
世間のメガネ屋さんのフィッティングで、もみ上げの押さえかたよりも、さらに、最もできていないのはどこか……
といいますと、それは、腕の屈折点から先の形状調整(というよりも、もはや形状形成と言ったほうがよいかもそれませんが)です。

この部分の調整については、この雑誌の当該講座の写真を見ますと、A氏は、例によって耳介にひっかかるような深い下向き角を腕先につけておられ、そうでありながら、耳の後ろのへこみなどの形状に腕先を添わせるという重要な点にはまったく触れておられません。

A氏が平生、そういう形状修正作業をなさっているのかいないのか、それはわかりませんが、少なくとも、この記事には、それについては何も書かれていません。
この講座に、腕先の修正前と修正後の形を写真で比較してありまして、腕を横から見た写真を見ますと、下向き角は調整前よりも深くなっているし、腕を上から見た写真では、腕先の抱え込み角を修正前よりも多少強くされたようですが、

その「屈折点から先の部分」の形状の修正はなされた形跡がうかがえないのです。

もしも、この装用者においては、耳の後ろにへこみがまったくなかった、というのであれば、これでもよいのですが、そういう人は少ないし、そういう人だから形状変更は不要であった、という説明ももちろん書いてありません。

ということは、この「フィッティングにおいて非常に重要でありながら、世間のメガネ屋さんが一番できていない」点について、A氏もやはりできていないのだろう、と、私は推察せざるを得ないのです。
そうであれば、A氏から指導を受けたかたがたの場合もおそらく、この「一番大事な点」ができていない蓋然性は高いといわざるを得ません。

なお、『科学的な眼鏡調製』(眼鏡光学出版社)の著者であり、これまでにフィッティングに関して、業界で数多くの講演などで眼鏡技術者の指導をしてこられた、辻一央先生はこの件について次のようにおっしゃっています。
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「他店で販売されたメガネを見ますと、どの点も出来てない(フィッティングをした形跡が無い)のが多いのですが、ところどころにフィッティングをした形跡があてっも、一番出来ていない点は岡本さんと同意見で、 モダン(腕先)の曲げだと思います。
曲げているものの中で、位置がまあまあが60%、角度まで正しいのが40%抱き込みつけているのが30%、先のはねまでつけているのが5%くらいでしょうか。
曲げているもの(全体の50%以下)の中なので、はねまでつけているのは結局全体の1%以下のように思います」
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この辻先生は、わが国にいま5人しかいないドイツの眼鏡師であり、A氏の技術書の中にも、辻先生の著書からの引用も出てくるほどなのですが、
ここで辻先生がおっしゃっている「曲げているもの」というのは、先に私が言った「耳の後ろのへこみなどの形状に腕先をそわせる」ということの中での、重要な要素であるわけです。

なお、A氏が主催するフィッターの認定テストについて、A氏は下記のように自店のホームページ(2014.2.23現在)に書いておられます。
(A氏の実名を出していないので出典のURLはあえて示しません)

(引用はじめ)
認定テストの採点は、テンプル幅・形状、クリングスパッドの着地点(フロントの高さも含む)・角度・頂点間距離、前傾角(フロントの傾きも含む)、モダンの屈折点、モダンの角度(落ち込み角・抱え込み角)。
に加えて、全体的な圧迫感やストレスなども採点されます。
(引用おわり)

ここにおいて、モダンについては、 「屈折点、落ち込み角、抱え込み角」のみが採点の対象になっており、 屈折点から先の(上から見た)形状については、何も触れてありません。

しかし、私のこれまでの経験では、 私がこの「耳の後ろの部分の形状修正」をしただけで、 「へえ~!ずいぶん掛け心地が良くなった。魔法みたいだ!」と感心されるケースも多いのです。

(了)

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