ハズキルーペPart.5を批評する
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ハズキルーペPart.5を批評する
岡本隆博
ハズキ5の腕にねじれが

今回の一件があったので、
ひさしぶりに東急ハンズ・梅田店の11階にある、
ハズキの売り場へ行ってみた。

すると、
見慣れたあの大きいハズキ(以後「旧ハズキ」と書く)
はまったく見当たらなくて、

小型のハズキルーペ5(以後「ハズキ5」と書く)
だけが8本展示してあった。

 売り場のハズキ担当者のかたにたずねると、
「昨年の年末に旧ハズキからハズキ5にチェンジした。
いまは発売元も旧ハズキは持っていないのではないか」
ということであった。

 それで、私はとりあえず、
ハズキ5の、ブルーライトカット機能つきで、
度数が+1.3Dの方を買い求めた。

 それを、ハンズから徒歩7分の自店へ持ち帰った。
紙箱をセロファンで封をしてあり、
発売元から出荷されてから
まだ誰も中身を開けてみていないことがわかる。
それで、封を切って箱をあけて
中身を取り出してみたら、
なんと、腕がねじれている。

 すなわち、
横から見て左の腕が
(屈折点のところで4、5ミリ上がっているのである。 
これは決して望ましい状態ではない。(写真参照)
 それで私は翌日また同じ売り場へ行って、
展示してある8本のハズキ5について、
すべてねじれの状態を調べてみた。

 その結果は、下記のとおりであるが、
いずれの場合も、全体としてフレームがねじれており、
どういうわけか左の腕が上がっているのである。

+1.3D 枠色・紫:1mm 白:3mm 黒:1mm 赤:1mm
+2.5D 枠色・紫:4mm 白:1mm 黒:2mm 赤:1mm


(おそらく、この記事がアップされた時点(2014年6月)では、
まだ同じもの(見本)が同店に展示されているはずであるから、
ネジレの具合も確認していただけると思う)

 ハズキ5のフレームの形状や素材からして、
多くのお客さんが試し掛けをするうちに、みなこのようにねじれてきた……
ということは考えにくい。

なぜなら、
その場でなんとかねじれを治そうと思って、
少しひねってみたけれど、
治らなかったからである。

 ま、考えてみると、
手で少しひねっただけでねじれの状態が変わるのであれば、
それも困ったものであるから、
この「ねじれは簡単には治せない形状や材質」でよいのだ
とも言えるわけではあるが。

 それで私は、
「ふうん、ではもうひとつ、今度も、見本ではない、
元封に入った商品を買ってみたらどうかな」
と思って、+2.5D(レンズは無色)の方も購入した。

 それで、
店に戻って元封をあけてねじれの具合を見てみたら、
やはり4mmほど左腕のほうが上がっている。

 そして、
以前から旧ハズキが2本、自店に置いてあったので、
それを調べてみると、最初の鼻当てのものでは、
左2mm上、エラストマ樹脂のものでは左5mm上、であり、
もうひとつ保管してあった、メガネ型の金属腕のハズキ・ペアルーペでは、
見事に腕のねじれはゼロで、
横からみたら長い腕はぴったりと重なっている。


他の店にあるハズキのねじれは?

ハズキは、設計の図面では、
もちろん左右対称になっているはずで、
製造の段階で生じたねじれであるに相違ない。
(理由は不明)

そこで次に私は、
パソコン通信(ML)の仲間のメガネ屋さんたちに、
貴店にハズキがあるのなら、
そのねじれ具合を調べてご報告をいただけませんでしょうか、
とメールを出してみた。
すると、下記のような回答があった。

高知県・A店
旧型ハズキルーぺが1本あります。
当店のハズキには、腕のねじれはありません。

茨城県・B店
ハズキはPART2 PART3 各1本あります。
PART3(+2.50)(テンプルに「見本」と入っています)
のほうで屈折点のあたりで(丁番から9センチ)左が約4ミリ上がっています。 

静岡県・C店
当店には旧型+2.5Dが2本ありますが、
腕のねじれはありませんでした。

山梨県・D店
当店には従来型の+2.5Dが2本ありますが、
どちらも腕のねじれはありません。

長野県・E店
当店にはハズキルーペ、Part3が3本あって
一本はねじれがなく、もう2本はわずか左テンプルが上で、ほとんど問題ないくらいでした。

新潟県・F店
ハズキルーペpart3(+2.5D)が3本在庫していて、
3本とも、左が1mmくらい上がっていました。
ハズキルーペpart5(+1.3D)が2本在庫していて、
2本とも、左が2mmくらい上がってました。


福岡県・G店
旧型のねじれている1本は1mmくらい、
新型のねじれているのは3本が1mmくらい、
2本が1.5mmくらい、どれも左が上がっています。


(どの店も、もちろん実名はわかっているが、
ここでは一応店名は伏せた)

 以上のように、
これまでに私自身や仲間のメガネ屋さんが
調べてみたすべてのハズキで言えば、
31本中、
ねじれゼロが6本、
わずかのズレが2本、
1mmのずれが12本、
1.5mmのずれが1本
2mmのずれが4本、
3ミリのずれが1本、
4ミリが3本、
5ミリが1本、となり、
実際上問題になりそうなずれを2mm以上とすると、
それは9本あって、全体の約3割となる。

 こういうねじれがなぜまずいのか、ということについては、
普通のレベルの眼鏡技術者のかたであれば、
説明を聞かなくてもたちどころに了解されるであろうが、
このサイトの読者には、
そういう専門家ではないかたも多いと思うので、
一応解説をしておく。

枠のねじれによる筋性眼精疲労

 この場合、
度なしのサングラスであれば、
こんなねじれがあっても、
顔にかけたときに
外見的にまずくなることが多いだけで、
まあ実害はない。

 ところが、
度つきの場合は、そうではない。

 たとえば、
2.5Dのハズキ5で
左腕が4mm上がっているものを
顔に装用したとする。

(1)もしかして、
その人の左耳のほうが右耳よりも
4mm高い位置についていたとする。
 そうであれば、
正面から見て両目の瞳孔を結ぶ横線と
メガネフロント部(左右のレンズ)の水平線とは
ズレが生じる蓋然性は低いのであるが、
 
そうでなく、比較的多いところの
(2)右耳と左耳の高さに違いがない人
ならば、たいていの場合、
両目に対して相対的に左レンズの方が
右レンズよりも4mm前後下がってしまう。

(3)さらに、
まん悪く、右耳の方が左耳よりも4mmほど高いのであれば、
両眼とレンズの関係は、なんと8mm前後も傾いてしまうのである。

 仮に+2.5Dのハズキ
(以後、単に「ハズキ」と書いたら、
それは旧ハズキとハズキ5の両方を指すものとする)
でフロント部に8mmの傾きが出たら、どういうことになるのか。

なんと、約2△(プリズムディオプトリー)の光学的上斜位が眼に負荷されてしまう。

(3)までいかず、(2)の場合でも、約1△の光学的上斜位が眼に生じる。

 こういうプリズム誤差から、
眼精疲労(この場合は、筋性眼精疲労)が生じてもまったくおかしくない、
というか、むしろ生じないほうが不思議だとも言える。

(詳しく言えば、屈折異常の度数の強い人ほど、
この種の上斜位には免疫があるが、
正視に近い人ほど1△未満の上斜位でもコタエるのである)

 なお、
毎日メガネのフィッティングを真剣にしている眼鏡技術者であれば、
耳の高さの違う人は実に多く、
3〜4mmの違いのある人はざらで、
中には5mm以上の差のある人も、
ときどきいる・・・・ということを知っている。

 もしもそれに気がついていないフィッターがいるとすれば、
その人はまじめにメガネのフィッティングをしていない人であると、
私は言ってやりたい。

 とにもかくにも、
度つきの双眼式のルーペメガネ
(OCDをうんと狭くした既製老眼鏡、と言ってもよい)
であるハズキで、
このような腕のねじれは、まことにまずいのである。

 それはもちろん、
ハズキだけに言えることではなく、
普通の既製老眼鏡でも同じなのだが、
どちらの場合でも、
販売の時点でフィッティングによりそのねじれを正して、
顔にかけたときに眼の水平とレンズの水平がずれないようにすれば、
問題は生じない。

 しかし、
ハズキにしろ既製老眼鏡にしろ、
そんなフィッティングがなされることは実際のところ少ないから、
このねじれは望ましくないわけで、
枠のねじれが
運悪く耳の高さの違いを
増幅してしまうという最悪の
結果をもたらすことのないように、
少なくとも出荷の時点ではねじれがなく、
横からみたら腕の上下方向における角度が
きっちりと一致するように
作っておかないといけないわけである。

 これは、
ハズキも含めた既製老眼鏡あるいは
既製品のルーペメガネの基本事項であるといえる。

ハズキの何割にねじれがあるのか

 では、めったにないことだと思うが、
たまたま、眼鏡技術者がハズキを販売し、
販売するときに、技術者が元封を開けて、
ユーザーにハズキをかけてもらったとしようか。

 そして、
ハズキ自身のネジれか、
そのユーザーの耳の高さの違いか、
あるいは、その複合か、
何らかの原因で、
ハズキを顔にかけて水平が取れていない場合に、
その技術者がよほど不注意な人間でなければ、

腕の角度を左右で変えて、顔の掛けた場合に
正面から見てレンズの光学中心と眼の中心線とが
平行になるように調整をしようとする。

しかし、他のめがねとは違って
ハズキの場合で困ることが、ひとつある。

 それはどういうことかというと、
ハズキでは、どのようにしたら、
このねじれが修正できるのかが、よくわからないのである。

 ハズキの両腕を手で握って、
腕のねじれが治る方向にぎゅっぎゅっとネジってみても、
さほど変化がない。
そういう材質の、可塑性の少ないプラスチックが
ハズキのフロント部と腕に使われているのだろう。

 プラスチック製の枠といっても、
眼鏡によく使われているアセテートなどのプラスチック枠であれば、
そのねじれを修正するには、
普通は丁番のところで
腕の下向き角をかえたり枠を暖めたりするのだが、
ハズキのフレームは、
丁番をひねって腕の角度が調整できるようには見えないし、
それを暖めてよいのかどうかも不明であるし、
仮に暖めてもよいとしても、
暖めてそこを調整すればればねじれが直りそうな所は、
そこに熱をかけると、
レンズも熱でやられてしまいそうな場所だから、
熱をかけるのは、こわい。

だから、多くのハズキは、メガネ店で販売されているものでも、
腕の角度の調製がなされずに販売されているのではないかな、
などと私は想像をしてしまうのである。

 なお、
個別調製用のメガネ(メガネ店にある普通の矯正枠)であっても、
出荷の時点ですでに多少のねじれがあるのもないではないが、
そんな枠の場合は、我々眼鏡技術者は
たいていは簡単に手で修正できるので、
ねじれていない状態にして店頭に展示をしておく。

 また、それを販売するときには、
レンズを入れる前にフィッティングをして、
耳の左右に違いがあろうがなかろうが、
とにかく、眼の水平横線と、
フロント部の水平横線に角度の差が出ないように、
我々は枠の調整をするのである。

 いま、全国各地で、
お客様にあるいは販売員に
元封を開けられることを待っているハズキ5および旧ハズキのうち、
はたして何割が、ねじれなしの状態で箱の中に納まっているのであろうか。

 ハズキの発売元の経営者や技術者のかたは、
そういうことを考えたことがおありなのだろうか。

いま、メーカーにある
出荷前のハズキ5はもとより、
元封のまま、ユーザーがその封を開けてくれるのを待っている
小売店のハズキも、
メーカーが責任を持ってすべて総点検する……
必要はないのだろうか。



それと、ハズキのパンフには《片手でかけられます》としてある。
ということは、片手がけをしても枠にネジレは生じません、
ということなのだろう。
ということは、枠の元からのネジレは熱でもかけない限りは
治せません、ということなのでしょうネ、プリヴェAGさん……


 我々メガネ屋は、メガネの使用上の注意として、
お客様に次のように説明する。
 「メガネを掛けたりはずしたりするときには、両手で
お願いします。片手で掛けはずしをしますと、全体に
ねじれがおきたり腕が片方だけ開いてきたりします
ので……」
 ところが、プリベAG社は、ハズキのパンフで「片手掛け」を
勧奨するかのように述べている。
 ということは、相当の物理的な作用が何度加わっても、
ハズキには、その素材や構造により、ねじれも片手開きも
起きない、ということなのでろう。
であれば、初めからねじれていた場合は、誰がどうやって
それを修正できるのだろうか?


ハズキが小型になって

 ハズキ5について、
ねじれだけしか批評しないというのもおかしいので、
他の点についても、私の意見を書いておく。

 まず、形状的に良い点は、
腕の屈折点から先を上から見た形に
フィラデルフィアベンディングが施されているという点がある。

 すなわち、
腕の屈折点から先において、
先端の外への逃がし、すなわち、「しのみ」だけでなく、
しのみよりも少し手前のあたりに、
ごくゆるやかではあるが、
外への逃がしがついているのである。
これは他のサングラスや既製老眼鏡はもとより、
矯正眼鏡でもめったに見られないことである。

 もっとも、だからと言って、
ハズキ5なら誰にでもノンフィッティングで
耳まわりのフィット感が十分よい状態で
得られる・・・・・というわけではないが、
それでもここが直線的になっているよりは、
ゆるやかにカーブしているほうが
ベターであることはたしかなのである。

 それから、
ハズキ5は腕の長さを旧ハズキよりも短くしてある。

 これはおそらく、
鼻先までレンズを遠ざけて(より大きく見て)使うという
旧ハズキにおいて勧奨されていた使い方を
ハズキ5では発売元が放棄(断念)したからであろう。

(そういう鼻先使用の使い方の記述が、
ハズキ5の使用説明書には見当たらなくなった)

 ハズキ5と旧ハズキとの一番の相違は、
旧ハズキに比較してハズキ5はかなり小型になっており、
旧ハズキではレンズが、
横136mm縦42mmであったが、
ハズキ5では、横127縦32となっている。

 そのため、
枠とレンズを含めた全体の重量は、
ハズキ5は2.5Dの方でも24gしかない。
旧ハズキの32gからすると、25%減である。

それで、
ハズキ5についているエラストマー樹脂の鼻当ては、
かなり狭いものなので、
普通にメガネの感覚で掛けると
よほど鼻根が低くて狭い人でない限り、
レンズがかなり上に上がってきてしまって、
特に手元のものを下向きの視線で見ることが多い2.5Dの方では、
使いにくい。(下方視線でのレンズ視野が足りない)

 その場合、もちろん、
鼻あてを鼻先の方にまで下ろしてレンズを下ろせば、
下向き視線での視野と
レンズでの視野が
かなり合致してくるのだが、
ハズキ5は旧ハズキとは違って、
レンズがあまり大きくないので、
そういう鼻メガネ的な使い方にすると、
人によっては、
明視できる視野全体の広さに不満が出てくるはずである。

 そして、
そういう鼻メガネ的な使いかたの勧奨は
ハズキ5ではもはや使用説明書に書いていないから、
ハズキ5は基本的に、
そこまでレンズを遠ざけて使うものではないということであろう。

 であれば、
この鼻当ての狭さは、
改善をしたほうが良いように思う。

 旧ハズキは、
もともと鼻メガネにして使うことを前提として設計されたので、
あのような大きいレンズとなっていたのであろうが、
(ただ、パンフでの宣伝写真の人物はそういう掛け方はしていなかったが)
ハズキ5は、おそらく
「旧ハズキは(大きすぎて)重いとか、携帯に不便」
などの声が多かったので、
このように比較的小型軽量に衣替えをしたのであろう。

そうであれば、
腕を短めにするだけでなしに、
鼻当ての寸法形状も、
使い方に応じた変更が
なされるべきではなかったのかと私は思う。

 また、ハズキ5の重さが24gであっても、
メーカーが薦める
「普通のメガネとハズキとの重ね掛け」
をすると、
メガネを含めた全重量は40gを超えることが多くなり、
やはり、重苦しさを感じる人も出てくるだろう……
というか、私自身、自分のメガネの前にハズキ5をかけると、
やはり、その重さにうっとおしさを感じるので
長時間使用する気にはならない。

 それと、
自分の遠用メガネの前にハズキ5を重ねがけをして、
ハズキ5を少し下にずらして、
遠近両用メガネとして使うという使い方をするのであれば、
ハズキのフレームがけっこう太いので、
それが目障りになると思う人も少なくないだろう。
(私自身は、そのようにするとハズキのフロントリムが目障りだと感じる)

 なお、ハズキ・ペアルルーペ → 旧ハズキ → ハズキ5 
と移行していくにつれ、
だんだんとハズキの独自性というか「個性」が薄らいできており、
小型軽量で顔に掛けて楽、という
普通のメガネや既製老眼鏡の傾向に
ハズキも近づいてきているように感じるが、
それは、角膜頂点間距離を長くして、
手元のものを大きく見るルーペメガネ、
としての独自の光学特性をねらうハズキとしては、
決して進化であるとはいえないように私は思う。

また、
ハズキ5にはない旧ハズキの利点も確かにあるのだから、
望むらくは旧ハズキを製造中止にせず、
旧ハズキとハズキ5を並行販売としてほしかったと思う。

やはりおかしい「1.6倍」や「1.32倍」

 次に、
ハズキ5の光学的な点について検討をする。

ハズキ5には、2.5Dと1.3Dがあり、
どちらも、OCD(光学中心間距離)は48mmである。
当然ながら、後者の方が、
近見時に眼の輻輳を助けて物をより大きく見せるベイスインプリズム
の量は少なくなるが、
後者の方が視距離も長いから、
そのときに眼に要求される輻輳の量も少ないので、
「どちらのOCDも48」でも別に問題はなさそうである。

ただ、
ハズキ5を鼻先用法では使わないとなると、
網膜像の拡大効果としては、重ね掛けをしてもしなくても
通常の老眼鏡と同じであり、
そこにベイスインプリズム負荷による
脳内映像の拡大効果が
プラスされるだけにとどまる。

 だから、
ハズキ5の実効(実見)倍率の数値において、
そのパンフにも書いてある
「2.5Dの方で1.6倍、1.3Dの方で1.32倍」
という数値は、
鼻先用法を勧奨していた旧ハズキの場合よりも、
さらに「ありえない、誇大表示的な倍率」となってくる。

 倍率についての詳しいことは
本サイトの別項「プリヴェAGと代理人田中克幸弁護士からの警告書」に書いたが、
たとえば、2.5Dで計算した網膜像倍率(ベイスイン負荷は抜いての数値)は、
VD(角膜頂点間距離)60mmなら約1..2倍あるが、
VD12mmだと1.06倍ほどにしかならない。
それにベイスインによる脳内映像の拡大を加えても、
1.6倍からは、はるかに遠い大きさにしかならない。

だから、ハズキ5では、
メーカーはもはやユーザーに対して、
はっきり見えるだけでなく
大きく見えるという特長を享受してもらおうという気持ちは、
かなり減ってきているのではないか、
と言われてもしかたがないと思う。

 なぜなら、もしも、
その気持ちがまだ強くあるのなら、
ハズキ5(特に2.5Dの方)でもやはり鼻先使用を勧奨するべきなのに、
それをしていないのであるから。

 それから、旧ハズキでも、
レンズの光学中心の正面高さは、
天地中央よりも約4mm下(レンズの下端から約18mm)にあったのだが、
この方針はハズキ5でも踏襲されていて、
というよりも、むしろ強化(?)されていて、
ハズキ5の光学中心は、
レンズの天地中央から約10mm下(レンズ下端から約5mm上)にある。

なぜハズキ5では
こういうふうな光学設計にしてあるのかということについて、
もちろん私が断定をするのは無理であるが、推察はできる。

 すなわち、
ハズキ5では鼻先使用をしないのだから、
顔にかけた場合の、レンズ全体の正面高さの点では、
旧ハズキより上に来るだろう。

 そうすると
近見における視線の下向き角度のことからすれば、
視線はレンズのかなり下部に来るだろう、という判断で、
ハズキ5では、このような極端な光学中心の正面高さの下げ、
というものが実行されたのかもしれない。

 それと、これは想像だが、
もしかしたら、その措置は、天地中央付近に視線が通った場合、
両眼にベイスダウンプリズムがかかって、
下向き視線でものを見る場合に、
視線の下降角度を節約できるというメリットを勘案して……
ということもあるのかもしれない。

 もっとも、その節約の程度はたいしたことはなく、
たとえば、2.5Dで眼前30cmのものを見るときの節約度合いとしては、
両眼に負荷されるベイスダウンプリズムは、
2.5△程度であるから、角度にすると、
2度にもならないものであり、
1.3Dのハズキ5では、その半分程度である。

レンズの色はこれで良い?

なお、
ハズキ5のレンズの色であるが、
パソコン用との想定であろう1.3Dの方は、
ブルーライトカットをねらいとした
赤みの有る茶色(濃度は約30%程度)であり、
読書や細工物などを想定した2.5Dの方は無色である。
たしかに、悪くない設定である。

しかし、
パソコン画面を極力明るく見たい人もいるだろうし、
パソコン用のハズキ5で手元の書類も明るく見たい人もいるだろう。
そうであれば、濃度30%というのは、いささか濃すぎる。

また、2.5Dのハズキ5で手元(30cm近辺の視距離で)のスマホなどを
ブルーライトカットつきのレンズで大きく見たい人もいるだろうから、

「1.3Dの方はすべてブルーライトカット、2.5Dの方がすべて無色」
とするよりも、どちらの度数においても、
無色のものとブルーライトカットのものの両方を、
ユーザー本位に発想して、
用意してもらいたかったな、
と私は思うのである。

なお、
この茶色の方のレンズの濃度は
「やや濃いかな」
「もう少し薄くてよいのでは」
とも思うが、
英国規格(BS)で
55%のブルーライトカット率
(ハズキ5のパンフによる)
を謳いたいということ、
すなわち、高性能のチブルーライトカットレンズです、
ということをアピールするには、
この程度の濃さはやむを得ない、
ということなのであろう。

ハズキの単独使用には触れないパンフ

では次に、
ハズキ5のパンフを見てみる。
 (以下、《 》内の文は、当該パンフからの原文のままの引用である)

東急ハンズのハズキの売り場にあった、
3つ折のパンフの第一面には、
石坂浩二が、スマホを持って、
にっこりとしてハズキ5の2.5Dの方を掛けている写真がある。

 そのパンフの別ページに下記の記述がある。

《ブルーライト(青色光)とは、
可視光線の中で最も光が強く、
眼の奥の網膜まで達する青色光。
スマートフォンやパソコンを見続けると、
眼の網膜への炎症など悪影響が懸念されています》


であるなら、
スマホを持っている石坂浩二が掛けているハズキ5は
ブルーライトカットであってほしい。
しかし、その色のハズキ5だと焦点距離が50〜70cmになり、
スマホ向きではないので、
スマホ向きの2.5D(レンズは無色)のものを掛けている、
ということなのだろう。

 そして、
このパンフには重要な疑問点がある。
この石坂は、重ね掛けではなく、ハズキ単独の使用である。

 しかし、このパンフには、
単独使用についてはまったく触れられていなくて、
その石坂の写真の下には大きく
《メガネの上から使える『ハズキPART5ルーペ』》
としてあり、
パンフの
《ご使用上の注意》としては、
《正しく検眼された眼鏡の上から重ね掛けしてください》としてあるが、
単独使用もできますという旨のことはどこにも書かれていない。

 であれば、
単独使用をしている石坂浩二の写真はいったい何なのか。

 私が想像するに、
ハズキに対して見え方に関するクレームが寄せられるとすれば、
それは重ね掛けよりも、単独使用の場合の方が多いのではないか。
(その理由についての推察をここに書くと、また長くなるので割愛するが、
別項「田中克幸弁護士から来た警告書」をお読みいただければ、
およそのことはおわかりいただけると思う)

また、想像をたくましくすれば、
ハズキでの見え方についてクレームが来た場合に、
重ね掛けであれば、
「ハズキよりも眼に近くかけているレンズの度数が合っていないのではないでしょうか」
ということが言えるが、
ハズキ単独でもどうぞ、と書いてあれば、
そういうことは言いにくく、
「裸眼でハズキを使って具合が悪ければ、
重ね掛けのほうがよいかもしれません。
それについて眼科で調べてもらってください」
と言うほかがないように思うが、
もしそう言えば、なかには
「だったら『ハズキを裸眼で使ったら見えにくいことがあるかもしれない』と書いておくべきではないのか」
と反論する人もいるかもしれない。

まあ、私に言わせれば、
個別調製のメガネでさえも
見え具合でうまくいかない場合もときどきあるのだから、
既製品であるハズキで、
誰もがうまく見えるなんてことはありえないのだが、
その辺のところをどう予防線を張るか、という点に、
メーカーは難しい思いをせざるを得ないわけなのであろう。


それと、もうひとつ。
《ご使用方法》として、《近視・乱視・老眼の方でも
お持ちのメガネの上から掛けられます》
としてあるのだが、そのページの下には
赤い文字で大き目の活字で
《*正しく検眼された老眼鏡の上から重ね掛けしてください》
としてある。

これでは、
近視や乱視を矯正する遠見用のメガネとハズキ5と重ね掛けが、
望ましい(あるいは、許容される)のかどうか
がわからなくなってしまう。

なぜなら、あとの文からは、老眼鏡以外のメガネとの
重ね掛けは良くない、とも解釈できるからである。

また、実際のところ、老眼鏡すなわち近見(専)用メガネに
ハズキを併用して、至近距離で細かい作業などをする
という場合よりも、遠用メガネにハズキを重ね掛けして
手元の新聞や本などを見るということの方が
多いのではないかと思うので、この《正しく検眼された老眼鏡
……》の注意書きは、私にはどうも腑に落ちないのである。


さらに言えば、
・遠近両用メガネにハズキ5の2.5を
重ね掛けすれば、近近両用になるし、
・遠近両用メガネにハズキ5の1.3を重ね掛け
すれば、中近両用になる。
・中近両用メガネにハズキ5の2.5を
重ね掛けすれば、近-超近両用になるし、
・中近両用メガネにハズキ5の1.3を重ね掛け
すれば、近近両用になる。

そういう使い方を、メーカーは勧奨しているのか、
あるいは勧奨とまではいかないまでも許容はしているのか、
それもよくわからない。

自分のメガネにハズキを、というのであれば、
ユーザーがわかりやすいように、もっと詳しく
説明をするべきではないだろうか。


使用説明書には「単独使用」もあり

次に、
ハズキ5に入っていた四つ折の
「使用説明書 保証書」
を見てみよう。
(以下、《 》内の文は、当該文書からの原文のままの引用である)

ハズキ5の2.5Dの方にも1.3Dの方にも同じものが入っていて、
《ご使用方法》としては、《メガネをご使用》の方は、
《メガネの上から重ね掛けください》としてあり、
《視力が良い方 コンタクトレンズの方》であれば
《そのまま掛けてください》としてある。

しかし、さきほど述べたパンフには、
《そのまま掛けて》は書いていない。
ではなぜ使用説明書にはそれが書いてあるのか。

それについて、以下に私の推察を書く。

(推察はじめ)
発売元としては
ハズキ単独使用での見え方の満足度に
いまいち自信がない
(満足できない人が少なからずいるということをわかっている)が、
重ね掛けなら、まあなんとかなりそうである……
という思いがあって、
単独使用を考えている人には、
なるべくならそれを思いとどまってもらうために、
パンフには単独使用を謳わないのであろう。

しかし、
そういうことは知らずにハズキを買った人(買う人)は多いと思う。
なぜなら、ハズキは外見的には、どう見ても「メガネ」なのであるから。

あるいはハズキをギフトとしてもらった人もいるだろう。
そういう人たちが、使用説明書を読んで、
単独使用のことが書いていなかったとすると、
単独使用をするつもりで買った人や、
ハズキをもらって単独使用をしたい人の場合には、
少し不安が出てきたり、
なんで単独使用のことが書いていなくて
重ね掛けだけ書いてあるのだろうかと、
疑問を感じるだろう。

また、あるいは、
もっと強い予防線として
「重ね掛けではない、ハズキの単独使用は避けてください」
などと書いてあった、という場合なら、
「ええっ!なんだって!
だったら、パンフに単独使用は不可と書いておくべきだし、
パンフを読まないで買う人もいるのだから、
販売の時点で単独使用はノーであると販売員が言うべきだろう。
こんなもの、返品だ!」
という気持ちになりかねない。

発売元にしてみれば、
ユーザーにそういう気持ちなられたらまずい。

ゆえに、買ってくださった以上は、
あるいは、せっかくもらってくださったものなら、
一応は使ってもらったほうが、
使わない前から返品を言われるよりもマシ、
と発売元は思うであろうから、

パンフには書いていない「単独使用」を、
「使用説明書」には書いてあるのではないか。
(推察おわり)



それと、
《正しく検眼された老眼鏡の上から重ね掛けしてください》
とも書いてある。

これはおそらく
「重ね掛けでハズキを使うと見え方に満足ができない」
という苦情があった場合の予防線であろうが、
しかし、もし、
そういう苦情を言ったユーザーがいたとして、
その人に対してメーカーが
「使用説明書にも書いておきましたように、
元のメガネの度数が正しいかどうかが重要です。
眼科でそれについて調べてもらって、
正しいメガネに換えてください」
とでも言ったとしよう。

それでもしそのユーザーが
眼科へ行って調べてもらったら、
眼科は「メガネはこれで合っているが、
ハズキの光学中心が48mmで短すぎる、
これが見えにくい原因では?」と言うかもしれず、
ユーザーから、眼科でそう言われました、
と聞いたメーカーは、
どのようにユーザーに返答するのであろうか。

(実際のところ、
ハズキのOCDが48mmになっていること
の意味や効果についても、
また、なぜハズキの狭いOCDが
近くのものをより大きく見せるのか
ということを理解できる眼科はごく少ないのであり、
その理解が可能な眼科は、
おそらく日本の眼科全体の1%もないと私は思う。

そのへんのことは、
プラス度数の近用眼鏡において、
眼科が発行する近用メガネの処方箋のPD数値が
遠見PDよりもあまり狭くしていないという状況から分かるのである。

(それについての詳しいことは、
2014年の7月発売の拙著書『眼鏡処方の実際手法』に書いたが、

ほとんどの眼科では近見時の輻輳を
メガネのベイスインプリズムで
補助しようなどという発想がないのである)

とにかく、単独使用のことが、
ハズキ5の使用説明書には書かれているのに、
パンフには全く触れられていない、
というのは、おかしいことだと言うほかはない。


それからもうひとつ言っておくと、
使用説明書にもパンフにも
《焦点距離は個人差があります》としてある。
その言わんとするところはユーザーもわかるであろうが、
これは実はあまり好ましい記述ではないと私は思う。

なぜなら、焦点距離(メガネレンズの場合は
正確に言えば「後側頂点と前側焦点との距離」)は、
ハズキを誰がかけても変わることはない。
それはレンズの度数によって決まっていて、
たとえば2.5Dなら40cm、1.3Dなら約77cmである。

ハズキにおいて個人差があるのは焦点距離ではなく、
「明視域」または「明視範囲」なのであり、
ハズキ使用者の、眼の屈折状態と調節力、そして厳密に
言えば角膜頂点間距離、によって明視域が変わるのである。

もちろん、ハズキにかかわる専門家のかたは、
それは承知の上で、一般の人にもわかりやすいように
「焦点距離」という言葉をここに書かれたのであろう。
しかし、そう書くと、焦点があう点が一点しかないような
感じもするが、実際にはそうではないから、
なんだかそぐわないように私は思う。

そして、焦点距離という言葉は、なまじっか専門(学術)用語
でもあるからして、ユーザーへの啓蒙と言う観点からしても、
私自身は、この記述には賛成できないのである。

「ピントが合う距離」とでも書いておけばよかったのではなかろうか。


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それから、使用説明書には、シロウトっぽいミスがある。

《仕様》のところに《屈折率 2.5D 1.3D》としてあるのだ。
この《屈折率》はもちろん誤りで、「屈折力」が正しい。
プリヴェAGには、光学の専門家はいないのだろうか?
それとも、校正ミス?

いやいや、これは同音異字ではないから、
ワープロソフトの変換ミスに気がつかなかったことによる誤植、
というものではない。

校正の前の原稿の時点で、2.5Dを「屈折率」だと
思っている人間が、ハズキの説明書を書いたということ
に相違ないのである。

使用説明書は大事なものだから、もっと、光学に精通した
人間に書いてほしいと思う。

 * ここにたとえば、1.50 とか、1.60とかいう
   数値が書いてあるのなら、
   《屈折率》で合っているのだけれど……。


やはり既製老眼鏡がライバル

それから、
使用方法のところに書いてある、
次の文章も極端である。

《市販の簡易型の老眼鏡の上からかけても良く見えません。
めがね店にご相談ください》

後半の《めがね店にご相談》
はまあよいとしても、前半の言い切りは、事実と反する。

既製老眼鏡にハズキを重ね掛けして、
ちゃんと目的を達する人が居ないはずがない。

個人向けの調製老眼鏡に重ね掛けするよりも、
既製老眼鏡にハズキで重ね掛けしたほうが
満足する人の率は下がるかもしれないが、
それでも、
《良く見えません》という断定は絶対におかしい。
事実に反する。

たとえば、
弱度近視で老視中期以降の人が、
うんと細かいものを接近して大きく見たい、というのなら、
遠用眼鏡にハズキ、よりも、
あまり強度ではない既製老眼鏡にハズキ、の方が
目的を達成できる確率はずっと高い。
ただし、長時間快適に見ることが可能かどうかは別として。

この文の《良く見えません》のところが、
「よく見えないことがあります」となっているなら、
そのとおりなのだが……、
《見えません》という断定は、まったく事実に反する
独断と偏見だと言えよう。

それで、
ではなぜこのように既製老眼鏡を
ハズキのメーカーは排斥するのだろうか。

それについては、
このサイトの別の項で述べたように
「ハズキのライバルは既製老眼鏡」(←私見)なのだから、
ハズキのメーカーは既製老眼鏡を嫌いなのだろう(←推察)。
だからこのような極端な記述になったのではないか、
と私は推察する。

見え方の苦情への釈明方法は

それから、
保証書には保証内容として、
本体、鼻パッド、レンズが破損などした場合の
無償の交換や修理について書いてある。

これはこれでよいのだが、
使用するうちに生じたレンズの傷
については何も書かれていない。

私はハンズでハズキ5を買うときに、
男性の売り場主任(田中さん)から、
「通常の使用でレンズが割れて使用不能になった場合には無料で交換します」
と聞いたので、「では傷ならどうですか」と尋ねてみた。
すると「使っているうちに傷がつくのはよくあることなので、
補償の対象にはなりません」とのことであった。

それはまあよいとして、
ではこの商品の目的である、一番大事なこと、
すなわち、見え方の不満に対する保証(あるいは、補償)はないのだろうか。

それについては、この保証書には何も触れられていない。

仮にユーザーから
見え方に対する不満の通知がメーカーに来たら、
メーカーはどう答えるのだろうか。

そういう通知に対しては、すべて返品を受けて返金をする、
というのは現実的なことではないだろうし、
もしもそうするのであれば、それが保証書に書かれていると思う。
しかし、そう書かれていないということは、
見え方に不満があるユーザーにはすべて返品を受ける
などということはしないということに相違ない。

ではどのように対応するのか。

単独使用であれば
(1)「メガネを掛けてそのうえからハズキを重ね掛けしたほうがよいと思うので、
めがね店でご相談ください」と言うのかもしれない。

そうでなく、
重ね掛けで見え方がいまいち、なのであれば、
メーカーはおそらく
(2)「そのメガネが正しい度数ではないかもしれないので、
メガネ店でご相談ください」と言うのであろう。

しかし、上記の(1)に対して
「遠くについては裸眼でまったく問題ないとめがね店(あるいは眼科)で言われた」
という答えが返ってきた場合、
あるいは(2)に対して
「メガネは合っていると、めがね店(あるいは眼科)で言われた」
という返事があった場合、
ハズキの発売元はどう釈明をするのであろうか。

これが、
100円均一の店で買った既製老眼鏡なら、
そこまで食い下がるユーザーはまずいないと思うし、
少ない枚数の千円札で買える既製老眼鏡でも、まあそうだろうと思う。
ところがハズキは高級で特別な光学特性を持った、
はっきり見えるだけではなく大きくも見える「ルーペメガネ」であり、
1万円前後もするのである。

簡単にはあきらめない人が出てきても不思議ではない。

見え方の苦情があった場合の対応については、
私はプリヴェAG社の人間ではなし、
ハズキを販売した経験もないので、
よくわからない。

もし発売元のどなたかが、
その答をお持ちであるのなら、
ぜひ教えていただきたいと思う。

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