見えグラスと
Kenkoメガネルーペを
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見えグラスと
Kenkoメガネルーペを調べてみた
岡本隆博
このサイトの前項「ハズキの類似品がいろいろ」で
紹介した、いくつかのメガネ型式のルーペの中から、
2つを通販で買って、調べてみた。


(A)見えグラス

(B)Kenkoメガネ型ルーペ ×2



上記の2つについて、下記のような観点で検討をした。

1)度数は正確か。
  当店に有るレンズメーターは、球面度数と乱視度数を、
  0.01D刻みで測定できる。
そのレンズメーターでこれらの商品の度数を測定してみる。

2)レンズに内部ヒズミはないか。
ハズキの場合は、製造方法からして
レンズに内部ひずみは生じていない。
しかし、この2つは、レンズを削って枠に入れたものだから、
入り方がきつすぎると内部ヒズミが生じる。
そのヒズミが多いと、ある程度の時間連続して使った場合に、
違和感や気持ち悪さを感じることがある。
たとえば、きちんとしたメガネ店なら、
レンズを枠入れ加工するときに
偏光板を使ったヒズミ計でレンズのヒズミをチェックするのだが、
それをしていないメガネ店の方が多いようである。
と思う。 

3)レンズの前傾角は適切か。
 ルーペメガネであるから、手元のものを下向きの
 視線で見ることが多いので、レンズの前傾角は、
 15度以上は欲しい。
 ハズキペアルーペではほぼ適切な前傾角がついている。

4)レンズの光軸は互いに輻輳しているかどうか。
必ずしも輻輳していなくともよいが、強めに開散している
 のは好ましくない。

5)VD(角膜頂点間距離)をどのように
  設定して使うようになっているか。
  ハズキペアルーペでは5cm以上となるように
  作られている。

6)レンズの光学中心は左右で同じ高さに設定されているか。
もし違っているとしたら、その場合の上下プリズム誤差は
どれほどになっているか。
筋性眼精疲労を防ぐ意味で、この誤差は0.06△
  未満であることが望ましい。
ハズキの場合は、左右のレンズは一体成型なので、
  光学中心の高さの誤差は生じない。
しかし、今回調べた二つは、別々のレンズを削って枠に
入れたものだから、ヘタをすると、両眼のレンズの
光学中心の高さに差に出てしまうのである。

7)OCD(左右のレンズの光学中心の間隔)や、
  光学中心の正面高さは、どう設定されているのか。
OCDは60よりも狭いのが望ましく、正面高さは
  天地中央よりも上にあるのは好ましくない。
 
8)装用の安定性や快適性、ずり落ちにくさなどはどうか。
これについては、どのみち通販商品なので、
  個人対応のフィッティングは無理だから、
  あまり期待はできないのだが
どの程度のものなのかということを見てみる。
(重量もこれにかかわる要素である)



(A)見えグラス


http://www.amazon.co.jp/%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9-%E3%80%90%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%80%91%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9%E6%8B%A1%E5%A4%A7%E9%8F%A1%E3%80%90%E5%BA%A6%E6%95%B04%E5%BA%A6%EF%BC%882-0%E5%80%8D%EF%BC%89%E3%80%91/dp/B00CJ2FSIG/ref=sr_1_17?m=A2FLMHDNMD6A5T&s=merchant-items&ie=UTF8&qid=1404557129&sr=1-17
(2014.7.12現在)

プリヴェから「ハズキの模倣品」として
訴えを起こされたメガネ式のルーペである。
(あとで、発売元は、これは既製老眼鏡であると
言っているとわかるのだが)

この宣伝によれば、
度数としては、1度、2度、3度、3.5度、4度が
あるという(これは、そこに書かれている倍率からして
1D、2D、3D、3.5D、4Dに相違ない)
ことなので、4度を注文した。


その理由としては、下記の2つがある。

●その度数のルーペで手元のものを見た場合の
 レンズ面での視線の間隔にレンズの光学中心を
 合わせるということからして、度数が強いほど
 OCDは狭くなっているべきであるが、
 そうなっているかどうかというのは、
 強度のもののほうがわかりやすい。

●強度のものほど左右レンズの光学中心の
 上下方向での誤差に注意深く作らないと
 いけないが、はたしてそれがどの程度
 できているかを見る。




そして、送られて来た実物商品を調べてみると、

1)
まず、度数が4Dではなく3Dだった。
サクサンに電話でそのことを言ってみたら、
中年の女性が「あら、そうですか。単純なミスですね。
すみません、お取替えします」とのこと。
それで私は「もういいです」と言って電話を切った。
この商品は度数が5種類あるはずなのに、
レンズにも枠にも度数の表示がない。
それもイマイチだなと思った。

なお、この度数を厳密に測ると、

R=S+3.06 C-0.11 Ax180
  (この乱視の軸度はまったくの偶然!)

L=S+3.02 C-0.08 Ax1

乱視がこんなに出るのはいただけない。

ちなみに、当店に在庫の+3.00Dのプラスチックレンズを
調べてみたら、S+2.98 C+-0.00であった。

上記の見えグラスの度数誤差は、メガネレンズのJIS規格
には、ぎりぎりパス(JISでは球面度数が
この度数なら乱視は0.12までがOK)
という程度なのであるが、ルーペとは言え、
メガネ型式であれば、メガネレンズの
精度が要求されるはずなので、
これだとほとんどボーダーラインというところである。

2)
右レンズはレンズ上辺の中央部、左レンズは
レンズ下辺の中央部にやや強めのヒズミがあった。
これが実際に眼精疲労につながるかどうかは不明であるが、
もう少し上手に枠入れ加工ができなかったのかな、と思う。

3)
前傾角は、まあまあである。

4)
左右のレンズの光軸は互いにわずかに輻輳して好ましい。
これはおそらくハズキペアルーペを真似たことに
よるものであろう。

5)
この点についても見えグラスはペアルーペを模倣しており、
ペアルーペと同じ位置に同じメカの鼻あてがついている。
だから当然、VDの確保ということについては問題は無い。

6)
左右の光学中心は左の方がわずかに低く入っていて、
その誤差はL=0.14△ベイスダウンである。
この程度であれば、フロント部が大きく
右下がりか左下がりにならない限り、実害はないだろう。
左右別々にレンズを削って枠に入れて、
この誤差をこの程度ですませているのは、上出来だといえよう。

7)
光学中心の正面高さは玉型の天地中央から1mmほど
下なので、まあ、問題は無い。
ところがまずいのは、OCDである。
約63mmになっている。
このサイトの別項「ハズキの残された謎がついに解けた」に
書いた、双眼ルーペにおける光学中心の
オーソドックスな設定方法からすれば、
この「見えグラス」の3Dの場合であれば、
VDを5cmとし、レンズから注視物までの距離を25cmと
想定すれば、OCDは52mmに設定しなければならない。
なぜ、そうしていないのか。
この見えグラスの設計者には、ハズキペアルーペにおける
OCD48mmの本来の意味もわからなかったのかもしれないし、
当然ながら、短いOCDによるベイスインプリズム負荷がもたらす
脳内映像の拡大効果も知らなかったのだろう。

もしかして、ひょっとすると、特殊な鼻当てでVDを
伸ばすことの意味もわかっていなかったのかも……
(いや、いくらなんでも、そこまで無知ではないだろう)

仏作って魂入れず……

 * なお、これが、ものを大きく見るための双眼ルーペでなく、
   建前どおりの既製老眼鏡であったとしても、
   実は63mmのOCDは感心できない。
   その理由は、以下のとおり。

基本的に既製老眼鏡のOCDは装用者の
近見PD(瞳孔間距離)よりも狭いのが望ましい。
なぜなら、そうなっていないと余計な輻輳が眼に
要求されるからである。
   
   大人で遠見PDが狭い人だと、それは60mmをやや下回る。
   そうすると、近見PDは50台の半ばであり、
   OCDはさらにそれよりも短めが望ましいのである。
   だからもし、「既製老眼鏡のOCDはどのくらいがベスト
   なのか」という問いがあったとすれば、私は
   「52mmがよい」と言いたい。

また、逆に、遠見PDが広くて70ほどもある人が
OCD52の老眼鏡で手元のものを見たとしたら、
ベイスインプリズムのせいで輻輳が減って楽に見えるし、
ものがやや大きく見えるというメリットは生じるが、
デメリットは何もないのである。

   世間に出回っている既製老眼鏡のほとんどは、
   OCDが60〜64程度である。
   それらの設計商品化に、眼光学をきっちり理解している人が
   拘わっていることが極めてまれであるということが、
   そのOCDの長さによってわかるのである。

8)装用感は、私の顔幅には緩すぎる感じで、
ずり落ちやすくて良くない。
これは通販だからしかたがないか……。
それと、右腕よりも左腕の方が(屈折点のあたりで)
1mm上がっているのもいただけない。

そして重量は38.5g。
ご本家のペアルーペ(33g強)よりも
重くなっている。

なお、ネットでの広告には、「見え方で合わない場合には、
別の度数のものに無料で交換」する旨が書いてあるが、
商品に添付の保証書には、物理的なトラブルについては、
保証期間内なら無償で修理する旨が書いてある、
見え方で不満があった場合については何も書かれていない。

そして、商品に添付されている使用説明書には下記の文章があり、
これを読む限りにおいては、
「この商品は、メガネ型式の
ルーペではなく、既製老眼鏡である」
と、発売元は言いたいようであるが、
それは例の裁判と無関係ではないのかもしれない。

(引用はじめ)
本製品は読みづらくなった手元の文字等を見やすく
することを目的に作られた、視力補正用補助グラスです。
(引用おわり)

このように、これはメガネ型のルーペでなくて
既製老眼鏡なのだ、と言ってしまうのなら、
この見えグラスが、同じ度数の既製老眼鏡に比べて像が大きく
見えることが無くてもかまわないのであるが、
しかし、ネット宣伝には、「オーバーグラス
拡大鏡」と大きな文字のタイトルがつけてあるし、
各度数のあとにいちいち書いてある倍率表示は
一体何なの?と私は言いたい。

また、
「だったら、この奇妙な鼻当てはナンなの?
なんでこんなにVDを長くして使うの?
これだと、視野が狭くなってしなうという
デメリットが生じるだけではないの?」
と言われたら、発売元は何と答えるのだろうか。

ネットでの広告の文言と、商品の実態と
取扱い説明書の文言を照らし合わせると
どうも平仄が合わないのである。

これはおそらく、サクサンがハズキペアルーペを
マネた商品を製造販売したところへ
本家から訴訟を起こされて、
急遽つじつま合わせのような取扱い説明書に変えたが、
ネット宣伝には当初のままの字句が残ってしまった、
ということから起こった混乱なのであろう。

また、取扱い説明書には「使用上の注意」として
「長時間の使用は避けてください」とも書いてあるが、
そういう商品であるなら、それはネット宣伝にも書いておくべきだろう。

その「使用説明」のところに
(引用はじめ)
《レンズの焦点距離は(1.60倍は40cm、
1.75倍は36cm、2.00倍は33cmですが、
個人差があるため人によって見える位置が多少異なります。》
(引用おわり)
と書いてある。

この「1.60倍」というのは2.5Dのことだろう。
であれば、その焦点距離が40cmというのは合っているが、
3Dのはずの「1.75倍」の「36cm」は誤りで、
「33.3cm」とすべきだし、
4Dのはずの「2.00倍」は、焦点距離は25cmである。
見えグラスの技術担当者はいったいどんな計算をしているのだろう。
(暗算を間違えたのか?)

それと、「仕様」のところに、「倍率」として、
「1.60倍 1.75倍 2.00倍」としてあり、
それは当然、2.5D 3D 4D に相当する倍率のつもりで
その数値を書いてあるのだろう。
しかし、ネット宣伝では、
(引用はじめ)
度数は1度(1.25倍)、2度(1.5倍)、3度(1.75倍)、
3.5度(1.87倍)、4度(2.0倍)をご用意しております。
(引用おわり)
としてある。
おそらく、度数が5種あるネット宣伝の記述は
ある時期以前の度数展開であり、それ以後に
この3種に縮小したということなのだろうが、
まったくいい加減、という印象を禁じえない。

また、その「仕様」の欄には
《瞳孔距離 PD53mm〜60mm》
としてある。
これはおそらく日本人の近見PDの
大体の範囲を書いたつもりなのだろうが、
であれば、レンズのOCDが63mmになっているのは
不可解としか言いようがない。
もしかして、53mmで作るつもりが
間違えて63mmで作ってしまったのかしら?

それと、この「見えグラス」が入っていたケースは
やわらかい袋状のもので、外力に対する抵抗力は
ほとんどゼロである。
ご本家のハズキのペアルーペは堅牢なハードケースに入っていて、
それを企画設計商品化した人の、商品に対する愛情を感じる。

なお、商品に添付されていた保証書には「製造元」の欄があり、
そこにサクサンの住所と社名が書いてあるのだが、
その下に「医療機器製造許可番号」と
「第三種医療機器販売業許可番号」が書いてある。
ということは、これはやはりルーペではなく
既製老眼鏡だということなのであろう。

既製老眼鏡なら、もっとコンパクトで、
もっと軽くて、もっとスマートなものが、
もっともっと安く買えるのだが……。



(B)Kenkoメガネ型ルーペ

http://www.amazon.co.jp/Kenko-%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%9A-%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%9A-%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF-KTL-001/dp/B005J6SASO/ref=pd_sim_k_3?ie=UTF8&refRID=1CVPQG5EWCXKX2XXCS
(2014.7.12現在)


この種のオーバーグラス型のものはいくつかあるが、
今回私がなぜKenkoのものを買ったのかというと、
実は私は若いころはカメラ屋をしており、
カメラ用のフィルターなどで
Kenkoは懐かしいブランドである。
へええ、あのKenkoがこういうものを作っているのか!
という、ちょっとした驚きというか、
ある種の感慨を持ったからである。

なお、ケンコーは
http://www.kenko-tokina.co.jp/about/history.html(2014.7.12現在)
由緒正しい立派な会社なのであるが、少しまえに
カメラ用の交換レンズの専門メーカーだったトキナーと合併して
(株)ケンコー・トキナーとなった。

では、実物商品を調べた結果を下記に書く。

1)レンズの度数は
R=S+4.04 C-0.04
L=S+4.08 C+-0.00
これはまあ上出来だ。

2)レンズの内部ヒズミは非常に少ない。
これも合格!

3)前傾角はやや弱めだが、まあ
許容範囲としよう。

4)レンズの光軸は、左右どちらも
2〜3度くらい開散している。
4Dの近見用双眼ルーペとしては、
感心できない。
なぜこうなったのか、明白で枠自体の
そり角が開散しているところへもってきて
後で述べるが、OCDがやたら広いからである。
枠が少し開散していても光学中心がかなり鼻側に
寄ってうんと狭く入っていれば、光軸はあまり
開散しないですむのだが……。

5)鼻あては、サングラスのレンズなどが入っている
オーバーグラスによくある、広くて幅が狭いもの。
重ね掛けではなく、単独使用をしたら、
VDが極端に狭くなりがちで、まったく像の拡大に
寄与しない。
重ね掛けの場合は、VDが長くなるので
それによる拡大効果は多少生じるが、
重ね掛けをすると
この枠の鼻あて部は装用者の鼻にはまずあたらなくて、
度つきのメガネにこれが乗っかかってくる感じで、
重さもあるからうっとおしさを感じ、
あまり長く使える感じがしない。

6)左右の光学中心は、ほとんど同じ高さに入っており
これについてはまったく問題は無い。

7)光学中心の高さは左右ともに天地中央から
1mmだけ上にあり、これもOKである。
ところがOCDがまったくいけない。
なんと73mmである。
なぜこんなになってしまったのかというと、おそらく、
これだけ巨大な枠(62□15)なので、
65mm径のレンズでは到底まともなOCDでは入らない。
それでレンズは特注の内寄せをしなくてすむ、
すなわちコスト的に安くてすむ、既製品のレンズの
中では最大の70mm径のものを用意して、
それでもって可能なだけ光学中心を狭く入れた。
ということであろう。
それとも、この枠の大きさで、OCDを
60未満で入れようとするとレンズが非常に分厚く
重くなってしまうので、それを避けるために
このOCDですませた、ということなのだろうか。

とにかく、理由はどうであれ、普通のメガネ屋なら、
+4Dで、たとえば、近見PDが60mmの人に
OCD73mmで近用メガネを作る、
なんてことは、天地がひっくり返っても
まずありえない。
このOCDだと、普通のPDの人が使うと
近見において4△程度のベイスアウトが
負荷されるが、それはすなわち、それだけ余分な
輻輳を眼に要求するということだから、
これはこのメガネの使用者に対して
筋性眼精疲労をもたらすおそれが多分にある、
危ないメガネだと言う他はない。

この商品をプロデュースした人は、そのあたりの
ことについてどこまで認識や知識を持っているのだろうか。

なお、この商品で、両眼の回旋中心の間隔を64mm、
VDを4cm、レンズと注視物との距離を20cmとして、
レンズ面を通る視線の間隔を計算すると、
それは52mmになるが、
この商品の企画設計においては
そういう計算はまったくなされなかったか、
あるいはなされたのだが無視されたかのどちらかであろう。

8)重量は約55g。重すぎる。
これが入っていた紙箱に「約55gで軽量」と
書いてあるが、いったい何と比較して「軽量」なのだろうか?

なお、これには使用説明書の添付はなく、
そのかわりにこれが入っていた紙箱に、「注意事項」と
「仕様」が書いてあった。
「仕様」のところには《倍率2倍》としてある。
もちろん誇大表示である。
(なぜこれが誇大表示だと私が言うのかは、このサイトの
別項「田中克幸弁護士からの警告書」に詳しく書いたので
ここには説明を省略する)

私が若いころは、カメラ業界ではケンコーフィルターといえば
知らない人がいない一級品であった。
そのケンコーが、柳の下の何匹めかの泥鰌ねらいで
こういうものを出すようになったとは……
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