重ね掛けについて・その2 |
岡本 隆博 |
単独使用については、前項で検討した。
本項では、重ね掛けについて検討してみよう。
鮮明度について
個人対応の調製眼鏡であれば、
眼の左右の屈折異常の度合いが異なる「不同視」の場合や
中等度以上の乱視がある場合なども、
メガネによってそれらが相応に矯正されているであろうから、
そういうやや変則的な屈折異常がある眼の場合には、
メガネ型の双眼ルーペ単独で手元を見る作業をするよりも、
自分のメガネとの重ね掛けのほうが、
よりはっきりと見やすいであろうということは、
容易に理解できることである。
明視域からの考察
では、重ね掛けによって
明視域、すなわち、
眼前何センチから何センチまでの距離で
ものを鮮明に見ることができるのか、
その距離はユーザーの目的視距離内に
収まるのか、ということについて述べる。
これについても、ルーペのレンズについて
いろんな度数で検討すると
話が複雑になってしまうので、
ここでは、メガネ型の双眼ルーペの代表選手としての
ハズキの度数(+1.3Dと+2.5D)で考えてみる。
日本人の場合、おおざっぱに言って、
老眼のある人の約半数は近視系であり、
近視でない人は正視系か遠視系である。
* ……系というのは、乱視もある場合も含んだ
言葉である。たとえば、近視と乱視がある眼なら、
「近視系」となる。
しかし、弱度の遠視系や、弱度の近視系の人は、
通常の生活ではメガネをかけずに済ませている人が多く、
●老眼世代の人たちは、ざっと次のように分類される。
1)近視系を矯正したメガネを常用している。
1)−1 単焦点メガネを常用している。
1)−1−1 近見用メガネは持たず、
手元は裸眼で見ている
1)−1−2 近見用メガネも持っている
1)−2 その矯正の遠近両用累進メガネを常用している。
1)−2−1 近見用メガネは持っていない。
1)−2−2 近見用メガネも持っている。
* このうち、1)−1−2の人や1)−2の人の中には
デスクワークで中近両用累進メガネを使う人もいる。
2)遠視系を矯正したメガネを常用している。
2)−1 遠視系を矯正した遠近両用メガネを常用している。
2)−1−1 近用の単焦点や中近両用なども持つ。
2)−1−2 遠近両用以外は持たない。
2)−2 遠視系を矯正した単焦点メガネを常用している。
この、2)−2の人は、近見専用の単焦点メガネや
中近両用などを持っている。
3)正視系を矯正したメガネを常用している。
3)−1 正視系だが、乱視が強いので、それを矯正した
単焦点メガネを常用している。
この人は近用の単焦点や中近両用メガネなどを
持っている。
3)−2 乱視が強い正視系や、裸眼視力が良い正視系だが
遠近両用が便利だという理由で、それを矯正した
遠近両用メガネを常用している。
この人の中には近見用や単焦点や中近両用も
持っている人もいる。
4)普段は裸眼で過ごしている。
4)−1 遠方用のメガネは持っていないくて
近見用メガネのみを持っている。
4)−2 遠方用の単焦点メガネと近見用メガネを持っている。
4)−3 遠近両用メガネを持っている。
この場合は近く専用メガネは持たない人もいる。
老眼世代の人たちは、大略以上のように分類できるのだが、
では、これらの人における、ハズキの重ね掛けによる
見え具合がどうかを検討してみよう。
まず、1)の場合であるが、
この人たちは、遠方用か近見用の少なくとも
どちらかのメガネに、ハズキの2.5Dか1.3Dを重ね掛け
すると、これまでの明視域とは違う距離のものを
はっきりと大きく見えて具合よく使えそうである。
たとえば、−2Dの近視の人で使っているメガネが
−1.5Dだとして、近見用は持っていないという人が
いたとすると、自分のメガネに2.5Dのハズキを重ね
掛けしたら、裸眼で手元を見るよりも、より近くで
大きく見ることができる。
ただ、その場合、1.3Dのハズキを重ね掛けした場合には、
PC画面を見るには距離がやや近すぎる感じだし、手元のものを
見るのなら、そんなことをするよりも、裸眼の方がまだ
ましである。
だから、この人の場合には、重ね掛けで使うのなら2.5Dの
方がよい、というか、そうでなければ意味が無い。
また1)−1−1の人で、眼の屈折異常度数は-2.75Dだが、
低矯正した-2.00Dの遠方用メガネで普段は生活をしており、
それだとパソコンはやや見にくく、裸眼では本を読むのは良いが
やはりパソコンはダメ、という人がいるとする。
その場合、PC用という説明の1.3Dのハズキを使ったら
どうなるかと言うと、裸眼に単独使用だと、たとえば
眼前65cmにあるPC画面はまったくぼけるし、
遠用メガネに1.3Dのハズキの重ね掛けだと、
遠点(ぼやけずに見える一番遠いポイント)は50cm弱
くらいになるので、やはりそのPC画面は見えにくいのである。
だから、「遠方用メガネを使っている人なら、
そのメガネと1.3DのPC用ハズキとの重ね掛けで、
PC画面をはっきりと見ることが可能である」とは
言い切れないわけである。
また1)−1−2の人なら、近見用のメガネにハズキ(どちらの
度数でも)を重ね掛けすれば手元をうんと接近して大きく
見たい場合には役に立つし、遠方用のメガネが完全矯正に
近ければ、1.3Dのハズキの重ね掛けでPC作業用に
役に立つかもしれない。
しかし、遠方用メガネに2.5Dのハズキの重ね掛けであれば、
すでに持っている近見用メガネだけで見るのと、特に違いは
ないかもしれない。
そして、1)−2の人なら、遠近両用に、ハズキの重ね掛けで
中近両用として使えそうである。
その場合、1.3Dのハズキのほうが用途は広いと思うが、
手元のものをうんと接近して見たければ、2.5Dのほうが役立つかもしれない。
また、既に持っている中近両用にハズキを重ねて、より近くも見える
近近両用としてうまく使えるかもしれない。
次に2)や3)の場合はどうか。
これらの人の場合、いま近業で時に不自由をしていないのなら、
ハズキの必要性というか、重ね掛けしての用途は特にないと言えようが、
何かのときに、手元をもう少しはっきり大きく見たいという
ことがあるのなら、そのときには、自分のメガネと、強弱どちらかの
ハズキとの重ね掛けで、目的を達成できるかもしれない。
最後の4)の場合はどうか。
この4)の人で、しかも「遠方用と近見用を持っている人」の場合、
自分の生活においてそれで十分、と言う人もいようが、
その度数によっては、1.3Dか2.5Dの
どちらかのハズキとの重ね掛けで、
これまでの明視範囲とは違う距離のものを
見ることができて助かる、ということも有り得る。
たとえば、4)−2の人で、遠方用に+0.75(完全矯正)、
近見用に+3.25を持っているという人ならどうだろう。
この人がたとえば眼前60cmにあるPC画面を見るには、
裸眼ではもちろんダメだし、どちらのメガネでも
見えにくく、かなり不便なはずであるが、
1.3Dのハズキを遠方用メガネを重ね掛けしたら
丁度良さそうだし、手指の爪を切るときには、近見用メガネに
1.3Dのハズキを重ね掛けしたら具合良さそうである。
以上のことをまとめて言うと、次のようになる。
・ハズキは、単独使用よりも重ね掛けの方が役に立つ
可能性は大きい。
・しかし、それでも、メガネを持っている人なら誰でも
重ね掛けで必ず役に立つ……とは言い切れない。
その理由としては、個々の人によって
メガネの矯正度合いが皆違うし、
見たい視距離もいろいろだからである。
・ハズキが重ね掛けで役に立つとして、1.3Dか2.5Dか
どちらのハズキが役に立つのかは、一概に言えない。
(その人によって違ってくる)
だから、重ねがけでハズキを使う場合にも、やはり、
実際に試してみて、自分にとってはどちらの度数のハズキが
役に立つのか、あるいはどちらも役に立たないのか、はたまた
どちらも役に立つのか、それを見てみるのがよいのである。
なお、同じ人が度数の異なるメガネを多く持っていればいるほど、
そのどれかにハズキを重ね掛けすることにより、ある目的に
合致する度数になる可能性は高くなる。
しかし、いずれにしても、
ハズキをギフトとして使うのには、多少のリスクが伴う。
まず、自分がハズキを使ったこともないのに、
宣伝を見ただけで誰かにハズキをプレゼントするということは
あまりないと思うが、
若い人が父の日や母の日に、あるいは親の誕生日に
ハズキをプレゼントする、
ということはあり得るだろう。
その場合に、そのハズキを具合良く使えるかどうかは
一概に言えない。(その理由は前の項と本項で縷々述べた)
ではたとえば、
老眼世代の自分は近視のメガネをかけていて、
ハズキの重ね掛けが役に立った。
知人のAさんもメガネをかけている。
だからAさんにもハズキは役に立つだろう、と思って
Aさんにハズキを贈った、というような場合ならどうか。
これでもリスクがゼロとはならない。
自分とAさんとでは、眼の度数が違うだろうし、
メガネの矯正度合いも違うだろうし、見たい視距離も違うだろう。
そして、強弱どちらのハズキが役に立つのかも、
ご本人に実際に試し見をしてもらわなければわからない。
そして、もしハズキを贈られたAさんが、
ハズキの単独使用や重ね掛けをしてみて
あまり役にたたないな、と思ったとしても、
贈った人に対して「あれ、どうもうまくいかないよ」、
などとは言いにくいものである。
それと、もしもハズキがあまり役にたたなかったとしても、
それがもらいものであれば、発売元にわざわざそういう感想を
伝えることはまずないだろう。
なので、ハズキがギフト用として売れることは、
それへの不満が発売元へ届くことは非常に少ないという意味では
発売元にとっては助かることであろうが、
もらい物の場合、試し見なしでハズキを使うことになる
ユーザーが多いという点では、ハズキに満足できるユーザーの
率がやや少なくなるということでは、
発売元にとっては、ギフトとしてハズキが売れる
ということは、本当に喜ぶべきことなのかどうかは、
疑問となると私は思う。
使い勝手からの考察
では、次に使い勝手の点から「重ね掛け」について
考えてみる。
A)全体に重くなる。
普通のメガネとハズキルーペPart5とを重ね掛けすると、
その重さは40gを超えることが多くなる。
(Part1〜3のハズキなら、あと10gほど重くなる)
そうすると短時間の近業ならよかろうが、ある程度の時間継続する
場合には、人によってはその重さがしんどくなってくることもある。
B)鼻への当たり感覚
単独使用よりも重ね掛けの方が、ハズキの鼻あての当たる位置が
低い。その位置が下に来ればくるほど、普通はうっとおしいものである。
このページの中の「湧き水さん」はそのへんのことについて
詳しく書いている。
もっとも、匿名の書き込みなんてホントかどうか分かったものではない、
というのも一面の事実であるから、
この書き込みの内容をどう判断するかは
読み手次第、ということになるのであるが、
私には、この投稿が逆ステマ、すなわち、
でっちあげの体験記であるとは思えない。
* もしも、ハズキの発売もとが「この投稿は絶対に逆ステマだ。
当社の商品に限って、このような使い勝手の悪さなど、起こるはずがない」
という確信を持っているのであれば、この投稿の削除を求めるとか
投稿者の氏名の開示要求とかを、このサイトの主宰者に対して
行なうのがよいと思う。
以上のA)とB)の二つの点においては、
重ね掛けで使うのであれば、
メガネ式の双眼ルーペよりも、
ヘッドバンド式の双眼ルーペの方が有利だといえよう。
しかし、後者は付けはずしがやや面倒である。
後者でレンズ部分を跳ね上げできるのなら、その面倒さは減るが
視野の広さにおいて後者は前者よりもやや
(あるいは、かなり)劣るものが多い。
また、装用しているメガネに取り付けるクリップオン式の
双眼ルーペもあるが、それも、脱着の面倒さや、
メガネも含めた全体の重さや、視野の狭さの点などで、
不利となるものが多いし、ナンと言っても
そういうものは単独使用がまったく不可能である点が
ハズキなどの、どちらも使用も可能なものに比べると、
商品の用途としては限定されてしまう。
(ただし、その種のものを便利に使っている人も当然いる。
だからそういうルーペは昔から長年存続しているのである)
C)像の鮮明さ
重ね掛けだと、2枚のレンズを通した像を見ることになる。
1枚だけのレンズで見るよりも、すっきり感はやや落ちる
ことは当然である。
(ただし、これは気にならない場合もあると思う)
この項と前項をまとめて言えば、
ざっと次のようになると思う。
・見えかた(明視域やはっきりさ)の確実性では、
単独使用よりも重ね掛けの方が有利である。
・装用感においては、単独使用のほうがやや上か。
・メガネを使っている人も、そうでない人も、
試し見をしてみないと、メガネ型双眼ルーペが
どれだけ役に立つかは、わからない。
なお、5分間見てみてOKであっても、
もっと長時間使っても大丈夫かどうか……
それは分からないが、
それは個人対応の調製メガネにおいても、
まったく同じことが言える。
ただ、比較すると、後者の方がユーザーにとって
リスクは少ないと思う。
その理由は、度数やフィッティングが個人対応で
作られているからである。
だからもちろん、通常は後者のほうが価格はかなり
高くなるが、最近は後者でも、ハズキよりも
安くできる店もある。
ただし、近見専用の調製メガネで、適度なベイスインを
負荷して、手元のものをより大きく見ることができるような
高性能なものを、いわゆる安売り店の販売者(技術者?)が
処方調製できそうには私には思えない。
それは安売り店ではない普通のメガネ店でも、
ほとんど同様であるが、少なくともこの「ルーペメガネ研究会」
の店でなら、それは可能なのである。
それと、話のついでに述べておくと、いわゆる安売り店と
普通のメガネ店とはどこが違うのかということについては、
下記のサイトをご参照していただければよいかと思う。
『大阪流・眼鏡店の選び方』
http://homepage1.nifty.com/EYETOPIA/sp/
(了) |
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