ハズキルーペの課題
では、逆に、
ハズキの課題点について、
私の考えを述べてみます。
|
|
1)1.6倍という拡大率
ハズキのレンズの度は+2.50Dですので、
一般的なルーペの倍率の計算式では、
たしかに1.6倍となります。
しかし、ユーザーのほとんどは、
ルーペの倍率の計算式も、
ハズキの度数も知らないでしょう。
それで、ハズキでものを見て、
「裸眼」または
「ハズキの内側にかけているメガネ」
で手元のものを見たときの大きさと、
ハズキを通して見たときのものの大きさを比べてみて、
「えっ?これで1.6倍?
ハズキがない場合に見える像の大きさと比べて、
自分には1.2倍くらいにしか見えないけれど……。
おかしいな、これは長さでの倍率ではなく、
面積での倍率なのかな?」
というふうにいぶかしく思うユーザーも
いるのではないでしょうか。
それと、
ハズキのレンズを鼻先に載せるのではなく、
鼻あてをもう少し上にあてて、
レンズを普通のメガネよりもやや遠いくらいの
位置にもってきたとしますと、
拡大率は下がります(注1)ので、
「ルーペだと言う割には、たいして大きく見えないな」
と思うユーザーもいるしれません。
ですので、1.6倍という数値については、
使用説明書に計算式も示しておき、
ハズキのユーザーが自分の目で見て感じる倍率とは
必ずしも一致しないということも
書いておいた方がよいのではないでしょうか。
(パンフや新聞広告などの宣伝文に
それを書くのはさらに好ましいのですが、
実際にはそこまではしにくいでしょう)
(注1)
たとえば、
(a)同じVD(20mm前後)で手元の
ものを見た場合のハズキと
(b)既製老眼鏡とを同じ+2.50Dで比較しますと、
近見時の視線の間隔(近用PD)に対して、
既製老眼の場合には、
近用PDとほぼ同じか、むしろ広めなのですが、
ハズキではOCDは48mmでかなり狭いので
ベイスインプリズムがかかって、
そのために眼の輻輳が節約されて
楽にやわらかい感じでやや大きめにものが見える
(上記の(b)よりも(a)のほうが1割ほど
大きく見えるでしょうか)という効果があります。 |
|
|
ハズキのパンフ(2011.12.26現在)に
右に示す写真があります。
これでは拡大率が約1.6倍になっています。
おそらく合成写真ではなく、
実写によるものだと思いますが、
しかし、このように大きく見えるのは、
ハズキを目から読書距離程度分離して、
レンズと見るものの距離を
ハズキのレンズの焦点距離近くまで伸ばした場合です。
|
 |
ハズキは、メーカーが言うように
鼻先にレンズを設定して見るルーペですので、
実際にハズキをメーカーが言う使い方で使うときには、
こんな拡大率で見えるわけではありません。
この写真は、ユーザーに
「ハズキをメガネのように掛けて使えば、
こんな拡大率で見えるのか」
という誤解を与えかねないものだと
言えるのではないでしょうか。
なお、この写真は、
ハズキでの拡大率を示す目的ではなくて、
ハズキでものを見たときの像のゆがみ(歪曲収差)を、
普通の単眼ルーペとの比較で示すために
掲載されているものですが、
そうであるなら、
やはりハズキを実際の使用するときの
眼とレンズの位置関係で撮られてはいないこの写真は
適切とは言い難いと思います。
なお、レンズを鼻先において使った場合の
ハズキでの像のゆがみ、
すなわち凸レンズによる糸巻型の歪曲収差
(レンズの周辺部で見る直線が少し丸く見える)
は、
私は視野の右端と左端で若干感じましたが、
ペアルーペではそれは見えませんでした。
これはハズキのレンズよりも
ペアルーペのレンズのほうが小さめで、
しかも左右のレンズの光軸の輻輳が
適度に設定されているからだと推察できます。
なお、
このサイトの前の項で紹介しました双眼ルーペは、
ハズキを出しているメーカーのもの以外は、
どれもレンズ交換式になっており、
かなり細かいものをうんと大きく見たい人には、
その要望にかなり応えられるようにしてありますが、
ハズキはそうはなっていないので、
これも、試し見をしないでハズキを買った人のなかには、
期待したほどの拡大度合いがないので、
がっかりする人もいるかもしれません。
そういう人のために、
たとえば、いまのハズキよりももっと拡大して
手元のものを見ることができる3.5〜5Dくらいの、
ストロングハズキをラインアップする、
という方法もあるでしょうが、
ハズキの度数を強くすると、
どういう問題点が出てくるのでしょうか。
@
|
レンズが厚く重くなります。
そうしないためにレンズを小さくすれば
度数を強くしてもレンズ厚さは抑えられるのですが、
「ハズキは視野が広い」
といううたい文句を変えたくなければ、
いまよりもレンズの有効径を
小さくしにくいわけですので、
視野の広さを保ったまま、
いまのハズキの重さのままで度数を強くする……
というのは、かなり難しくなってきます。
なお、ハズキが少し重くなったとしても、
鼻あての面積を広げると
鼻あてで感じる重量感は減りますが、
鼻あてを大きくすればするほど、
外見的にマイナスになり、
スマートさが減るでしょう。 |
A |
ピントが合う奥行きが減ります。
ハズキのレンズの度数が強くなればなるほど、
明視域
(調節域ともいう、ピントが合う奥行き距離のこと)
が短くなってきます。
自分が見たい視距離で
自分が見たい拡大率で見ることが
実際にできるかどうかというのを確かめるのは、
たとえば通販で、実物を見ない場合には
これまで以上に難しくなりそうです。
中には、店頭でハズキを見て、
自分が見たいように見えることを確認してから
通販でハズキを
購入するという人もいるでしょうけれど、
そうでなくて、
宣伝されているすべての用途目的に対して、
誰でもうまく見えるというふうに思って
ハズキを通販で買う人もいると思います。
ですので私は、
メーカーさんには宣伝の中に
「ハズキは通販ではなく、
ご自分の用途や
目的に合った見え方になるかどうかを
必ず店頭で試しに見てからお求めください」
という但し書きを入れていただけたらよいのに、
と思うのです。
しかし、たとえば、
ハズキの新聞広告
(2011.12.23産経新聞朝刊)
を見ますと、
発売元みずからが、通販をしておられます。
すでにハズキを体験している人が
自分用の二つ目以降のハズキを買うとか、
自分のハズキをかけてみて気に入った他の人
のために通販で買う、
とかいうこともあるでしょうから、
ハズキを通販すること自体を
私は全否定するのではありません。
ただ、ハズキ体験のない人が
通販で買う場合もあるでしょうから、
そういうかたのためには
上で述べた但し書きがあればよいのに、
と思うわけです。 |
B |
強い輻輳に対する対策は?
ハズキの度数を強くしますと、
より大きく見えるのはよいのですが、
たいていの場合、
いまよりもより短い視距離で見ることになりまして、
そうなると眼の輻輳量が増えます。
しかも、その場合、年齢の高い人ほど
眼の調節はほとんどせずに
その視作業をすることになりそうです。
それでは眼の輻輳と調節のバランスが崩れます。
それが短時間ならよいのですが、
長い時間それを継続すると
眼精疲労をもたらす恐れが出てきます。
それを防ぐには、
できるだけ少ない輻輳量で
両眼視ができるようにすればよいのですが、
そのためには、
ハズキのような単純なレンズ構造では、
ベイスインプリズムの増量
(OCDをさらに狭くする)
がよいのですが、
そうなると色収差が増します。
色収差の増加を抑えるには
屈折率の低めのレンズ
(色収差が少ない)
を使えばよいのですが、
屈折率の低いレンズだと
レンズの度数が少し強めだと、
厚く重くなってしまいます。
そうしないためには
レンズサイズを小さくすればよいのですが、
そうなると「視野が広い」という
ハズキの特長が一つ減ってしまうことになります。 |
C |
歪曲収差が増える
度数を強くすればするほど、
歪曲収差
(凸レンズですので糸巻型の歪曲)
が増えます。
レンズ周辺部では、
直線が丸く歪んで見えるわけです。
これに対する対策としては、ひとつは、
レンズのカーブを
うんと深くするということがまずありますが、
そうするとレンズの中心厚が増えて
重いレンズになってしまいます。
もう一つの対策としては、
非球面レンズにするという方法で、
それなら歪曲は最小で抑えられるでしょう。
ただ、少なくないプリズムつきの
非球面となりますと、
設計が難しそうですが……。 |
以上の4つの問題点をどのようにクリアーして、
いまのハズキの特長を維持したままで
ストロングハズキを商品化すればよいのか……。
これはハズキの開発者の
腕の見せ所だと言えるかもしれませんネ。
|
|
2)ルーペとして使うと外見が……
老眼鏡で
レンズの度数がそこそこのプラスである場合、
熟達した眼鏡技術者であれば、
OCDをうんと短くしてベイスインプリズムを負荷させると
輻輳量が節約されて見やすくなり、
しかも、やや大きく言えて好都合である、
ということは承知しているので、
そういうメガネを処方調製することもあるのですが、
鼻メガネにして見ることを前提とした処方は
めったにしません。
しかし、
お客さん自身がメガネを使っているうちに
鼻メガネにして使うことによる像の拡大効果を見つけて、
自分で勝手にそういう使い方をしている人は
いると思います。
そして、その使い方のメリットとしては、
像の拡大効果のほかにも、
レンズの上から裸眼で遠くを見て
遠近両用的に使えるということもあるようです。
(遠見で正視に近い人の場合)
それはともかくとして、
双眼ルーペは
VDを長くすればするほど倍率が上がるので、
メーカーとしてはルーペとして売っている以上、
できるだけ長いVDで、すなわち、
鼻先までレンズを下げてものを見てほしいわけですし、
実際、ハズキのパンフにもそう書いてあります。
ところが、そうするとメガネの形をしたハズキでは、
なんだか間抜けな外見に
なってしまうと思う人もいるでしょう。
もっとも、人前で使うのでなければ
そんなことは気にしなくてよいわけですし、
人前でも気にしない人もいるでしょうけれど……。
また、鼻先にレンズを持っていった場合に、
きょう日のメガネとしては決して軽くはない(注2)
ハズキの重さ(約35g)が鼻先にかかってくることを
うっとうしく感じる人もいるでしょう。
(注2)
いまのメガネは昔よりもかなり軽くなっていまして、
レンズと枠とを合わせて15~25g程度のものが多いです。
ただし、ハズキは外見上のボリューム感と
実際の重さのバランスから、
ハズキを軽く感じる人も多いようです。
ハズキを顔に掛けるときに、
鼻あてを鼻先まで下げるのではなく
鼻梁の中央部付近までもってくる方が
鼻のあたりのうっとおしさは減って視野も広くなるのですが、
そうするとVDが短くなって像の拡大効果がやや減ってくるので、
パンフには鼻先までレンズを離すように説明してあるのでしょう。 |
|
|
3)鼻あての位置
私が想像するに、
裸眼でハズキを使っている人でも、
メガネとハズキを併用している人でも、
レンズと眼との間隔がかなり長くとって
像の拡大効果が高くなるように
鼻あてを鼻梁の先端までは降ろすということはせずに、
すなわち、
メーカーが取扱い説明書などで勧める位置よりも
比較的高い位置
(宣伝の写真などで俳優がかけている位置)
までハズキのレンズの位置を
あげて使っている人も
多いのではないかと思います。
その方が物理的な装用感において
おさまりが良いですし、
これまでメガネを使ってきた人は、
そういう装用感に慣れていますから。
そうすると
レンズと眼の距離(VD)は、
普通のメガネよりもやや長いくらい
(20mm前後くらい)になります。
それでも
普通の老眼鏡よりもVDが長いのですから
当然ながら像の拡大効果も出るわけですし、
ベイスインプリズムの作用もあって
拡大効果はやや増えますし、
度数的に適合している人であれば、
手元のものがはっきり見えてよいのですが、
ところがこの位置にハズキのレンズをもってくると、
人によっては、
レンズを通して見る下方の視野が
足りないと感じるでしょう。
(私自身はそう感じます)
それで、
もしハズキで鼻あてを
鼻梁のそのあたりの位置にあてて使っても
下方視野が十分足りるようにしようと思えば、
鼻あての正面高さをもっと上げたらよいのですが、
そうすると今度は、
最大限の拡大で見るために
レンズを鼻先までもってきたときに、
レンズ全体が下がりすぎてしまいます。
これは、メガネ(老眼鏡)ではなくて、
物を拡大して見ることを本旨として、
そう宣伝している「メガネ型のルーペ」であるハズキの
設計上の今後の課題
だと言えるのではないでしょうか。
|
|
4)パソコンを見るには視距離が短い
ハズキの度数は+2.50Dです。
そうすると、
ほぼ正視の人が
裸眼でハズキをかけたときに、
ものを鮮明に見ることができる視距離は
約40cmかそれ以下、ということになります。
また、
弱度の近視の人が裸眼でハズキを使うか、
あるいは、
多少低矯正の遠用の近視矯正メガネをかけた人が
ハズキを併用した場合には、
もう少し明視の視距離が近づきます。
およそ30cmくらいでしょう。
それは
パソコンの画面を見る一般的な視距離よりは、
やや近めの距離だと言えます。
私はメガネ屋として
多くのお客様にパソコン用メガネの処方調製をしますが、
その場合の視距離を尋ねると、
たいていは、50〜70cmあたりになります。
(特に、画面の大きいデスクトップパソコンの場合には
視距離が長めになります)
ですので、たとえば、
パソコンの画面を大きくはっきり見たい人が、
通販で実物のハズキで試し見をすることなしに買ってから
実際にハズキでパソコンを見てみると、
自分の本来の視距離よりもかなり近づかないとだめ、
ということになり、
「こんなはずではなかった」
とがっかりする人もいるのではないでしょうか。
実際、私の女房は
メガネを常用しない正視系の乱視眼ですが、
「裸眼にハズキでは視距離が近すぎて
パソコン作業をするのは無理。
遠用眼鏡にハズキの重ね掛けでも同じこと。
近用眼鏡にハズキの併用だとよけいにダメ」
と言っています。
ハズキでパソコンの画面を見るのに
ほどよい距離で見ることができるのは、
もともとかなり近い距離でパソコン画面を見ていた人か、
あるいは、+1〜+1.5程度の弱度の遠視の眼で
裸眼でハズキを使った場合だけ、
ということになりそうです。
それ以外の場合ですと、
ハズキ単独でも、自分のメガネとの併用でも、
ハズキによるパソコン作業は視距離が短すぎて難しい、
ということになるわけですが、
+1〜1.5くらいの度数の(老人性)遠視の人は
さほど多くはなく、
しかもそんな度数の人は
大体70歳以上の人がほとんどであり、
パソコンをよく使う人の年齢層の中では、
その辺の人は割合としてはそう多くはないわけです。
ですので、
ハズキはパソコン作業にも好適です、という宣伝は、
特に、試し見ができない通販などでは、
あまり好ましい宣伝だとは言い難いように私は思います。
それでもしも、ほとんど正視の人が
裸眼でハズキを使うか、
正視に近く矯正された眼鏡
をかけた上にハズキを使って、
パソコン作業に適した視距離で、
画面を見られるようにするのであれば、
ハズキの度数としては
+1〜+1.5D程度のものにせざるをえませんが、
そうなると、像の拡大率が低くなってしまい、
もはや「ルーペ」とは言い難く、
既製老眼鏡との違いが
ほとんどなくなってしまいそうです。
ですので、
いまの中高年齢者が困っている
「パソコン作業での見えにくさ」
への対策としては、
ハズキは「ほとんどの人にはぴったりのもの」
とは言い難く
「一部の人にはパソコン作業にも使えるもの」
なのですが、
その点が現在(2011.12月)におけるハズキの
ひとつの大きな課題だと言えるのではないでしょうか。
また、メーカーの宣伝に
「パソコンを見るのにも……」
という語句があるのですから、
自分の家族や知人などで、
パソコンが見えにくいと言っている人の不満を聞いた、
その人の家族や知人が、
その人にハズキを
プレゼントするというケースもあるでしょうが、
その場合も、
試し見をしていなくてハズキをもらった人が
はたしてハズキでパソコンを
具合の良い視距離で
見ることができるかということを考えると、
私はちょっと心配になってきます。
なお、パソコン作業に好適なメガネについては、
私が代表を務めています
「パソコンメガネ研究会」
というのがありますので、
それをリンクで紹介しておきます。
クリック→「パソコンメガネ研究会」
|
|
5)レンズの反射防止コーティングは?
これは照明の具合にもよりますが、
眼とレンズの距離が長くなればなるほど、
光の具合によっては、
レンズの裏面での反射光が
目障りになることが多くなります。
いまのハズキの表面を見ますと、
反射防止コーティングがしてあるような色をした
反射光が見られるのですが、
実際のところ、かなりレンズの表面反射があります。
ハズキは基本的に
目とレンズをある程度離して使うものですので、
多層膜の反射防止コーティング
(裏表両面での合計反射率が1%以下)
は、
レンズを相当に目に近づけて使う通常のメガネよりも、
必要性が高いというか、
その効果は大きいと言えそうです。
たとえば、
自分のメガネの前にハズキをかけたときに、
ハズキのレンズの裏に
自分のメガネが映りこんでいたりすると、
うっとおしいものです。
そして、
いまやメガネのレンズでは標準的なものとなっている、
汚れ防止の水ハジキコーティングも
ハズキにしてあれば、
より好ましいと思います。
|
|
6)ルーペと老眼鏡の違い?
ハズキの宣伝に
「ルーペ(拡大鏡)と老眼鏡の違い
老眼鏡は字を小さいまま見せるレンズ
ルーペは字を大きく拡大するレンズ」 |
としてあります。
(産経新聞朝刊2011.12.10の広告)
これは
ハズキの発売元から一般向けの宣伝における、
ルーペと老眼鏡の「区別の説明」であり、
専門家を相手にした学問的な定義ではないと思います。
しかし、
それにしても私などは
「そうかな?」と疑問をいだかざるを得ませんし、
一般人でも、自分の実感で
「そんなことないよ。自分が使っている老眼鏡は、
文字が大きく見えるよ」
と思う人もいるでしょう。
だって、
マイナスレンズを使った老眼鏡は別として、
プラスレンズを使った老眼鏡は、
多かれ少なかれ像を
拡大して見ることになるのですから……。
特に+4D以上の度数にもなりますと、
普通のVDで老眼鏡を使っても
本などがけっこう拡大して見えるものです。
そうであれば、ハズキの発売元の定義(説明)でいくと、
それはもはや老眼鏡ではなく
ルーペだということになるわけですが、
でもそれはやはりルーペではなくて老眼鏡でしょうね。
ですので、このハズキの宣伝における、
ルーペと老眼鏡の違いの説明は、
実態に即したものだとは言い難いと私は思います。
メーカーでは、ハズキのイメージ戦略としてなのか、
「ハズキは従来からある『老眼鏡』ではないのです」
ということをアピールするために、
あえて「ルーペ」であることを強調しているのでしょう。
ちなみに、私は、
ルーペ(特に双眼ルーペ)と老眼鏡とは、
定義によって明確に線引きをすることは
不可能であると思っています。
なぜなら、ある一つの光学製品が、
それを使う人によっては
ルーペになったり老眼鏡になったりとか、
あるいは、
同じ人が使っても、使い方によって
老眼鏡になったりルーペになったりすることが
あるからです。
|
|
7)ユーザーに誤解はないか
ハズキの宣伝を一般の人が読みますと、
ハズキは既製老眼鏡ではなくてルーペなのだから、
既製老眼鏡につきものの度数の刻みは
ハズキには必要がなく、
とにかく手元のものを大きくはっきり見たい人なら
見たい視距離を選ばず誰でもどこでもハズキでOK、
というふうに解釈できそうです。
しかし、それは実態とは必ずしも合致しません。
単一の度数で、
そんなオールマイティーな双眼ルーペなどは、
まずあり得ません。
既製老眼鏡とはちがって度数の刻みがないハズキを、
像を拡大して見えるルーペ機能を利用するよりも、
むしろ既製老眼鏡代わりに使っている人も
実際のところ少なくないと、
私は思っています。
では、ここでハズキと
既製老眼鏡とを簡単に比較をしてみましょう。
・ |
既製老眼鏡では度数を選ばないといけないが、
ハズキではそれは不要なので、
通販でも買いやすいし、プレゼントにも便利。 |
・ |
スタイル的に、ハズキのほうがかっこいい。 |
・ |
同じ+2.50のものどうしを比べると、
ハズキのほうが物が大きく見えて、
具合よく感じる人も多い。 |
・ |
ハズキでは、既製老眼鏡とは違って、
自分のメガネとの併用も勧めているので、
ハズキ単独ではうまく見えない人でも
併用でよく見える場合が多い。 |
ハズキを単独で
既製老眼鏡の代わりとして使っている人や、
自分のメガネとの併用をしている人で、
近い距離でものを大きく見て満足している人は
実際に多いのでしょうが、
中には次のような人も当然いるでしょう。
《なんだかクラクラする・頭が痛くなる》
ネットで「ハズキルーペ 感想」で検索して、
ハズキの使用者の感想を読みますと、
満足している人も多いですが、
中には「クラクラする」という声も見受けられます。
我々メガネ屋は、初めての老眼鏡
(特に、プラスレンズで作る場合)
を検査処方する場合に、
極力必要最小限の度数ですませようとします。
たとえば、
ほぼ正視で40代で初めて近く用のメガネをかける、
という人に、
+2Dとか+2.5Dとかは、まず考えられません。
いきなりそんな度数で近く用のメガネを作ると
「これでは強すぎでしんどい」
というような感想になる恐れが非常に高いからです。
たとえば、
読書用の老眼鏡なら+1.25Dで十分な人が、
同じ用途で
+2.50のハズキをかけたらどうなるでしょうか。
読書の距離よりも、
もっと近い距離のものを短時間見るだけなら、
おそらく問題はないでしょうが、
普通の40cmくらいの読書距離で、
ある程度継続的に読書をするには、
+2.50では度数が強すぎて
眼精疲労を呼び起こす可能性も否めません。
|
|
下記の感想では、
ハズキを使うと頭が痛くなる、とのことです。
匿名の投稿ですので真偽のほどは不明ですが、
実際にこういうがあっても不思議ではないと私は思います。
感想その1
(2011.12.28現在)
|
感想その1のページより抜粋(2011.12.28現在)
『ハズキルーペ使用感想』というタイトルで投稿されています。
↓ |

|
また、下記の感想の中には
「ずっとかけているとクラクラする」
という書き込みがあります。
感想その2
(2011.12.28現在)
|
感想その2のページより抜粋(2011.12.28現在)
『父のリクエストに応えて』のタイトルで投稿されています。
↓ |

|
我々眼鏡技術者は、
常に0.25Dの刻みでの処方調製度数の判断をしています。
たとえば、ある人に
左右ともに+2.00Dの近用メガネを
処方調製して使ってもらったところ、
2〜3日して「強すぎるのではないか」というクレームが来て、
再検査をして、0.25D弱めの+1.75Dに替えたら、
それで満足してもらえた……
というようなことが、ときどきあります。
また、右が+2.75D、左が+3.00Dのメガネを使ってもらったところ、
「左目のほうがやや見えにくい」
という訴えを聞いて再検査をし、
左を+3.25Dに替えたところ、
「これならよい」との答えを得て安堵した、
というようなこともあります。
ですので、
そういう細かい度数に神経を使っている我々からすれば、
+2.50Dオンリーのハズキに対しては
「えっ?!
ハズキは老眼鏡ではなくてルーペであって
自分のメガネの上からかけることも多い……
と言っても、
裸眼でハズキだけを使う使い方もありなんですよね。
その場合には
両眼で眼のすぐ前にレンズを設定して、
メガネみたいに見る場合もあるのですよね。
それで、
誰にでも2.50Dオンリーで済ませてしまうのですか?
それはいくらなんでもちょっと……」 |
と思ってしまうのです。
私だけでなく、
多くの眼鏡技術者のかたも、
このように思うのではないでしょうか。
|
8)パンフの写真と説明文との相違
ハズキのパンフレット(2011.12.25現在)には、
「使用方法」として
「鼻の先にずらすようにかけてください」としてあり、
その説明図も載っていて、
その図では確かに
ハズキはレンズを鼻先にまで遠ざけて使用されています。
単独使用の場合でも重ね掛けの場合でも、
「場合によっては鼻の先までずらさなくともよい」
という説明は書いてありません。
実際のところハズキは、
鼻の先にまでずらさなくても使える場合も多いのですが、
なぜか、そういう記述は見当たりません。
そして、パンフの写真のモデルの石坂浩二は、
6枚の写真のどの写真においても、
ハズキを鼻先にまでおろさずにかけています。
これはひとつのパンフの中での矛盾だと
言えるのではないでしょうか。
説明文をこのまま変えないのであれば、
写真でも鼻先にレンズを持ってくるべきですし、
写真を変えないのであれば、
使用方法の説明に「レンズを鼻先までおろさなくとも
ご覧になりたい大きさで見えるのであれば、
レンズを鼻の先までレンズを降ろさなくても良いです」
という但し書きも、入れておけば、
パンフにおけるモデルの写真との
矛盾はなくなるわけです。
なぜその但し書きが入らないのでしょうか。
「ルーペという割には大きく見えないではないか」
というクレームの予防策でしょうか。
しかし、鼻先までレンズを遠ざけても、
どのみち1.6倍にまで
拡大して見えるのではないわけですから、
そこまでの予防措置は不要だと私は思うのです。
|
|
9)ホントに裸眼で大丈夫?
近用のメガネを持っていなくて
裸眼でハズキを使って
手元の見たいものを見ている人においては、
まったく問題なく便利に使っている人も
もちろん多いでしょうが、
逆に、
たとえ目的視距離で
一応ピントが合っているにもかかわらず、
見え方が今一つで、期待したほどでもない、
というかたもおられるのではないでしょうか。
普段裸眼で過ごしていて、
近くのもの以外を見るのには
さほど不自由ではないという眼の人でも、
実際にはそういう人が
みな左右ともにほぼ正視とは限りません。
軽度の屈折異常がある人、
不同視(左右の眼の屈折異常度数が違う)の人、
中等度以上の乱視がある人、
斜位がある人……
いろんな人が、普段裸眼で過ごしています。
そういう人は、
ハズキを使っても
左右の度数の差が縮まるわけでもありませんし、
乱視や斜位(特に上斜位)が
矯正されるわけでもありません。
遠くはいい加減に見えていてもよいけれど、
手元の細かいものは
鮮明にきっちりと見たいという人の場合で、
上記で述べたような
「実は裸眼では遠くも良好な見え方ではない」
人の場合には、
近くを見るのにハズキを使ってもイマイチ、
ということが起こっても、
何ら不思議ではありません。
そのことは、メーカーさんも、
ユーザー向けのパンフ(2011.12.25現在〕の中に
「正しく検眼された老眼鏡の上から重ね掛けしてください。
市販の簡易型の老眼鏡の上からかけても良く見えません。
メガネ店にご相談ください」
と書いておられることからも分かると思います。
すなわち、
目の屈折異常や眼位異常の検査もせずに
適当な出来合いの老眼鏡をかけている眼と、
自分の眼の状態を知らずに裸眼で生活している眼とは、
どちらにしても、
未矯正の乱視や斜位や不同視、
あるいは未治療の眼疾患の蓋然性を
含んでいるのですから、
両者は本質的に同じ眼であり、
違うのはピントの合う距離が違うだけなわけです。
ですから
「既製老眼鏡の上からハズキを使うのは
おすすめできません」
というのであれば、
眼科やメガネ店できちんとした検査を受けないで
裸眼でハズキを使うのもお勧めできません、
ということになるはずだと私は思うのですが、
どうでしょうか。
補足: |
既製老眼鏡が
その人の眼にそこそこ合っていて
粗悪なレンズでなければ、
かなりよく見えて別に目に悪いということもない
という場合もありますので、
ハズキのそのパンフに書いてある
「市販の簡易型の老眼鏡の
上からかけても良く見えません」
というふうに断言してあるのは、
私には事実に反するように思えます。
「良く見えないことがあります」
であれば、その通りだと思うのですが。 |
|
|
10)レンズの跳ね上げ機能もあれば
ハズキのレンズの天地サイズが
30mm台くらいまで短くなりますと、
ハズキを通して手元のものを見て、
ハズキのレンズの上方から
裸眼または遠用メガネで遠くのものを見る、
という便利な使い方もできるのですが、
いかんせんハズキのレンズ部の天地サイズは
43mmもあるので、
そういうふうに使うのは難しいです。
一部の双眼ルーペには、
レンズ部を跳ね上げることができて、
中距離や遠くを見たいときには
レンズを跳ね上げるということができるようになっており、
双眼ルーペをかけたまま歩きたいときにも、
跳ね上げ機能があるので便利……
というものもあります。
今後のハズキの進化の一つの方向として、
そういう機能もあれば助かる人もいるかもしれませんネ。
|
|
↓↓次のページに続きます↓↓
|
|
 |
→ハズキと既製老眼鏡との違いは? |
「それでは、左右ともに+2.50Dの既製老眼鏡
(既製老眼鏡をハズキのパンフでは
まったく評価に値しないものとみなしているようです)
とハズキとでは、実際にどこがどう違うのか」 |
|