ハズキと既製老眼鏡との違いは?
ではここで
「それでは、
左右ともに+2.50Dの既製老眼鏡
とハズキとでは、
実際にどう違うのか」
|
ということについて、もう少し詳しく比較して考えてみましょう。
(ハズキのパンフ(2011.12月現在)では、
既製品老眼鏡はまったく評価に値しないもの、
というふうな説明があります)
@ レンズの品質
ハズキのレンズは、
偏光板使用の検査器で調べますと、
物理的な内部ひずみが
非常に少ない高品質なもののように見えます。
ただ、レンズの材質によっては、偏光板のひずみ計
ではひずみが出てこない場合もあるので、
レンズ表面に映る蛍光灯の直線具合を見てみますと、
不規則な小さな曲がりが見えます。
こういう曲がりは、面精度の良いガラスレンズや、アンカットの
メガネ用のプラスチックレンズでは、まず、出ません。
ただ、ハズキのこの程度の反射光の曲がりであれば、
実用的には見え方にさしつかえはなく、
これによる眼精疲労なども心配はないだろうと想像できます。
それと、レンズはいわゆるメニス型なので、
ハズキをかけて物を見た場合の歪曲収差も比較的少ないです。
ただし、レンズの周辺部では凸レンズに特有の糸巻型
歪曲収差により、直線がゆるやかな曲線に見えます。
この歪曲は、レンズカーブをもっと深くするとかなり減らす
ことができますが、そうなると外見上の問題や
厚さ重さの問題が出てきます。
商品というものは、たいていは、どこかで妥協がいるものです。
一方、既製老眼鏡では、
ピンからキリまでありますが、
ハズキと同様のインジェクションによるものであれば、
偏光板ではひずみは見えないメニス型のものが多く、
そういうものでは、内部ひずみについては
ハズキとほとんど同じ品質を持つレンズ
となっていると言えます。
また、ふちなしの既製老眼鏡にも、
その構造からして、視線が通る部分には
内部ひずみはほとんど見られない物が多いです。
ただし、
プラスチックや金属などのリムに
レンズが入ったものにおいては、
内部ひずみの多いものがあり、
その点ではハズキのほうが勝っていると思います。
A 光学中心の設定
ハズキの左右の光学中心は
上下方向に関しては高さにまったく狂いがなく、
その間隔(OCD)が48mmになっているので、
成人で相当にPD(瞳孔中心間距離)の狭い人の場合でも、
近見時にベイスアウトプリズムが付加されて
目(視線)に開散が要求されて見にくくなる……
ということが、まずありえません。
その点でハズキはよくできています。
一方、
既製老眼鏡の光学中心の位置は、
インジェクションのレンズものでは
同じ銘柄のものであれば
個々の商品ごとのばらつきはあまりなく、
上下方向の狂いも
ほとんど問題にならない程度で
収まっているのですが、
OCDは64mm前後のものが多く(注1)、
人によっては、
近見PDよりも広めのOCDで
手元のものを見ることになり、
これは近くを見る場合に、普通よりもより多くの
輻輳を要求されるので、見えにくさや眼精疲労を呼ぶ
おそれがあり、感心できません。
(注1)
たとえば、
カートン光学扱いの既製老眼鏡で
イタリー製の『nannnini・コンパクトグラス』のOCDは63mmで、
日本製の『ど忘れグラス・シニア』のOCDは65mmです。
これらの設計者は、
この種のメガネのOCDはどうあるべきかということを
深く検討しなかったものと推察できます。
もし私がインジェクションのレンズによる既製老眼鏡を設計するなら、
それを使って近見をする場合に、
ベイスアウトプリズムの負荷がないようにしたいですので、
成人における近見PDの最も短い場合
(これは52mmくらいです)
の値よりもOCDをまだ少し短かめに設定すると思いますので、
私が作りたい既製老眼鏡のOCDは、
図らずもハズキのOCDに近い50mmとなります。 |
また、
レンズが金属などのリムに入ったものでは、
光学中心の上下位置に狂いがあったり、
OCDが広すぎたりとか、
オソマツとしか言いようがないものもあります。
ですので、
光学中心の設定位置については、
ハズキのほうがかなり勝っていると言ってよいでしょう。
ただ、
これに関連して付け加えるならば、
ハズキでは
左右のレンズによる上下プリズム誤差
を避けるために
光学中心の上下方向の高さを
見事にそろえてあるのですが、
しかし、
それを装用する人の
耳の高さがかなり違う場合で、
それに対応したフィッティングが
なされていない場合には、
多少の上下プリズム誤差が生じてしまいますので、
ハズキには必ず耳の高さの違いに
対処できる適切なフィッティングが望まれるのです。
ところが
実際のところそれがなされずに
ハズキが販売されているケースが
多いようですし、
たとえば、
通販で購入されたハズキにおいては、
適切なフィッティングなどは、
望むべくもないでしょう。
【参考1】
+2.50Dで光学中心が、
正面高さで上下に2mmの狂いが生じると、
約0.50△の上下プリズム誤差が生じます。
これは人によっては
眼精疲労を呼ぶおそれがあるもの
だと言えますので、
まともなメガネ屋であれば、
メガネを作るときには
これほどの上下プリズム誤差は生じないように、
光学中心の位置を揃えてレンズ入れをし、
フィッティングもするものです。 |
【参考2】
ハズキの宣伝を見て
ハズキを入手しようとしている人で、
近隣にハズキを販売している店がなくて
通販で買おうかなと思っている人の場合、
その買い物が失敗にならないかどうかということは、
下記の方法である程度予測できます。 |
(方法)
百円ショップなどで
+2.50Dの既製老眼鏡を購入し、
それ単独か、
あるいは自分が使用しているメガネとの併用で、
自分が見たい手元のものを、
自分が見たい視距離で
自分が見たい鮮明さで
見ることができるかどうかを
見てみたらよいわけです。
それで、まあまあOKであれば、
安物の既製老眼鏡よりもハズキのほうが、
レンズの品質もよいし、
度数は同じでもOCDの設定の良さのせいで
拡大率はやや高いし、
しかも見える視野が広いので、
「試し見をしないでハズキを買ったら失敗だった」
ということになるおそれはほとんどないと思います。 |
B 視野の広さ
ハズキのようなレンズの大きさ
を持つ既製老眼鏡は
めったにありません。
しかし、
ハズキのレンズを
メーカーが言うように鼻先まで遠ざけますと、
両眼視できる視野はかなり狭くなりまして、
B5の週刊誌を広げたくらいの広さになります。
一方、たとえば、
54□14のパーミエイトという枠で
ハズキの度数で近く専用のメガネを作りますと、
A4の本を広げたくらいの両眼視野
(上記のハズキでの視野よりも広い)
が得られます。
もちろんこれはパーミエイトでのVDは、
普通のメガネのVDになっている場合です。
もしも、
ハズキと同じ度数でハズキと同じ程度の拡大率で見ようとして、
レンズを鼻先まで遠ざけますと、
当然ながら
レンズが大きくて左右のレンズの鼻側がくっついているハズキ
のほうが両眼視できる範囲は広くなります。
ですから、
特に像の拡大は必要がなくて
手元のものがはっきり見えればよいという
目的用途であれば、
単独使用でも重ね掛けでも、
せいぜいVDが20mmくらいまでの状態で使うのであれば、
普通の近用メガネでも視野の広さには問題がないが、
レンズを鼻先まで遠ざけて拡大して見たいのであれば、
ハズキのほうが視野の広さで有利
だと言えるでしょう。
C 像の拡大度合い
像の拡大率において、
ハズキと同じ度数の+2.50の既製老眼鏡と、
ハズキとを比較すると、どうなるでしょうか。
・単独使用でレンズを鼻先まで遠ざけた場合、
・重ね掛けでハズキや既製老眼鏡を自分のメガネのすぐ前に重ねた場合、
・重ね掛けでハズキや既製老眼鏡のレンズを鼻先にまで遠ざけた場合、
上記の3とおりのいずれの場合も、
像はやや大きめに見えるのですが、
既製老眼鏡よりもハズキのほうが
像の拡大率は高いです。
(私の場合、約1割くらいハズキで見る方が大きく感じます)
これはハズキのOCDの狭さがもたらす
ベイスイン付加の効果であり、
その証拠に、
ハズキで手元のものを見ていて、
ハズキのレンズの前にさっとテストレンズで
2△ベイスアウトをかぶせて、
ハズキのベイスイン効果を消しますと、
像はぱっと小さくなります。
私は「メガネのようなルーペ」であるハズキの最大の特長は、
この狭いOCDにある!
のだと言いたいです。
これまでに、
メガネのように手軽に使えて、
ものを拡大して見る双眼ルーペはありましたが、
その場合で、
老眼鏡よりもはるかに広い視野で見れて、
おまけに、老眼鏡よりもものを大きく見ることができる、
そういう双眼ルーペは世界中どこにもなかったのです。
広い視野でOCDが48mmで、
それゆえに普通の老眼鏡よりも物を大きく見ることができる……
しかも視野が広い……、
そんな高性能の光学器具は、
既製老眼鏡の中にも、
双眼ルーペの中にもなかったのです。
そしていまも、世界中どこを探しても、ハズキ以外にはないのです。
視野の広さの点だけならば、
普通の個人対応の老眼鏡や既成老眼鏡で
不満はない人もいるでしょうが、
同じものを見て、
より大きめに見ることができるものと、
そうでないものとでは、
手元用であれば、どちらが使いやすいか、
ということになりますと、
それは改めて述べるまでもないでしょう。
既製老眼鏡よりもOCDが1cm以上も狭い……、
だから同じ度数の老眼鏡よりも物を拡大して見ることができる……
それがハズキのハズキたるゆえん、というか、
ハズキのアイデンティティーなんだと、私は言いたいです。
ですから、
ハズキの今後のラインアップとしては、
もっと強い度数のものや、
もっと弱い度数のものよりも、
案外「同じ度数で少し小ぶりで携帯性の良いもの」ということになるかもしれません。
もちろんですが、
その場合のOCDは48mmか、
それ以下で作るわけです。
(参考)
+2.50でOCDが63mmの既製老眼鏡と、
ハズキとでは、
同じVDなら当然ハズキのほうが像が大きく見えます。
そこで、
下記の二つの場合での像の大きさを比較してみました。
1)既製老眼鏡のレンズを鼻先まで遠ざけた場合
2)ハズキでできるだけレンズと眼の間隔(VD)を短く(約20mm)した場合
私の場合には
1)のほうが大きく見えました。
ただし、
視野の広さは
断然ハズキが勝っています。 |
D 度数の種類
既製老眼鏡では、
ほとんどのもので、
0.25Dまたは0.50D刻みに度数が揃えてあり、
その中から自分に
最も適していそうなものを選んで
使うことになりますが、
ハズキでは+2.50だけです。
「ハズキは既製老眼鏡とは違ってルーペなのだからそれでよいのです。
既製老眼鏡は、自分のメガネとの併用は前提とせずに
度数のラインアップがなされていますが、
ハズキでは、もしハズキ単独で見えにくい場合には
自分のメガネとの併用を想定して作られています。
ハズキはメガネではなくルーペなのですから」
とメーカーさんはおっしゃりたいのでしょうが、
しかし現実に、
ハズキを拡大ルーペとしての使い方ではなく、
既製老眼鏡的に使う人がいるかぎり
(以前のペアルーペでは
いやがおうでも長いVDでしか使えないようにしてありましたが、
ハズキではそうはなっていませんし、
宣伝の写真でも鼻先にまでレンズを下げていません)
やはり、
度数がひとつしかないというのは、
度数が数種類以上用意されている既製老眼鏡と比較しますと、
使用者の目的視距離にピントをもってきやすいという点では、
既製老眼鏡のほうにアドバンテージがあると言わざるを得ないでしょう。
E遠近両用的な使い方
既製老眼鏡の場合、レンズの天地幅が短めのものが多く、
そうであれば、単独使用でも遠用メガネとの重ねがけの場合でも、
老眼鏡のレンズを少し下にずらせて、裸眼または遠用メガネで
遠くを明視し、老眼鏡を通して手元を見る、という使い方ができます。
しかし、ハズキだとレンズの天地サイズが長いので、そういう遠近両用
的な使い方は、難しいでしょう。
ハズキでも、レンズをかなり鼻先にまでおろして、うんとアゴを引けば、
かなり上目使いに裸眼または遠用メガネを通して遠くを
見ることもできなくはないのですが、
天地サイズの浅い老眼鏡で同じことをする場合のほうが、
ハズキでそれをするよりもずっとやりやすいです。
それは、ハズキは元来、手元のものを広く大きく見るルーペであって、
老眼鏡ではないので、そういう使い方を想定しない設計になっている
からだと思います。
F携帯性
既製老眼鏡には、
いろんな大きさのものがありますが、
ハズキほど大きいものはあまりありません。
小さく折りたためて
小さなケースに入れて
ポケットに収めやすいものも
いろいろありますし、
そこまででなくとも、
普通のメガネケースには入る程度のものがほとんどです。
携帯性という点では、
既製老眼鏡のほうが有利でしょう。
ただ、
ハズキは室内で使うので
携帯性は関係がないという人の場合には、
ハズキでもなんら問題はないことになります。
以上のことを
まとめて言えば、
総じて既製老眼鏡よりも
ハズキのほうがレンズの品質は良く、
広い視野で手元のものを大きく見ることができる。
一方、既製老眼鏡のほうが
度数の選択肢や携帯の便利さの点で勝る、
ということになりそうです。
なお、
両者の共通点としては、
左右の眼に同じプラス度数を与えて近見をさせるのだが、
その眼の屈折異常や眼位異常が
不明なままにそうさせてしまうこともあるし、
適切なフィッティングがなされないままに
そのメガネ(メガネ型ルーペ)が使われることが多い……
という点では、
ハズキと既製老眼鏡とは同様である、
とも言えるでしょう。 |
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